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第7話 紅茶したたる

 黄色いローブの集団に担がれたイルナがそのままカーゴという車のような鉄の乗り物にのせられ、やって来たのは────【エイトブロック商会】。


 ダンジョンの武器、防具、装飾品の数々やブロックと呼ばれる特殊な建築材まで取り扱い生産する学園都市内では名のある商会の一つだ。


 その商会の所有する四角いブロックを積み上げ作られた館の中に、イルナ・ハクトは既にお邪魔していた。そしてここに自分が運ばれて来た経緯や訳を、エイトブロック商会のご令嬢〝エメラ・ブロック〟と名乗った者に、香る紅茶と共に説明してもらっていた。


「────────という訳なのですわ」


「それは、あ、ありがとうございます!」


 華美な貴賓室のソファーにかけ、緊張する面持ちのイルナは紅茶に口を付けず、ずっとエメラの話に耳を傾けていた。


 その話の内容はというと、実はここ最近出所不明で流れていた白髪赤目の少女にまつわる悪評をとくためにあの憩いの円環でマカミとミィナの野試合が終わった後に、グッズを売るついでにイルナのことをエメラお嬢様は「噂とは違う方」だと集った者たちに喧伝していたようだ。


 イルナがその事に対してエメラに礼を言うと、左右後ろに控えていた二人の従者たちがゆっくりと頭を下げる。どうやらいつも取り巻きでいる黄色いローブの集団の中には、この館で使用人の仕事をしている者もいたようだ。


 舌が乾いたのか、エメラは紅茶を一つ静かにいただきつつ、ゆっくりと片手を挙げ、メイド服を纏う従者たちに合図しこの室内からはけさせた。


「あなたから礼を言われるほどではなくて。それで……ここからが本題なのですが……いっ、イルナ・ハクト、あなたはまっ、マカミ様のことは、どどどう思ってらして?」


 紅茶のカップとソーサーがカタカタと音を立てる。先程までの気品や正しさを纏ったお嬢様然とした雰囲気が崩れるような様子で、エメラは切り出した「本題」をイルナ・ハクトの面に向かい直接問うた。


「ど、どどどどうって!? えぇ!? まっ、マカミくんは……」


 お嬢様の心境と動揺が乗り移ったように、イルナは持った紅茶のカップとソーサーが同じように小刻みに振動する。


「マカミくんは……その、じ、じじ実は」


「実は……!!」


 さらに前のめりで、向かい合わせのソファー前の二人を隔たる机を乗り越える勢いで、エメラの紫の瞳が前へ前へと、戸惑うイルナの表情を覗き込む。


 戸惑い、焦燥、恥じらいの感情がイルナに渦巻き、エメラお嬢様の勢いにずいずいと気圧されながらなおも膨らんでいく。


「じ、実は!!! そ、そんなに怖くないのかもぉ……って……?」


 思い切って口に出していたのは、そんなこと。思わず選んだよく分からない言葉を吐き出しては、目を瞑っていたイルナは、お嬢様の表情をそっと窺う。


 机に着いていた両手を離し、イルナの鼻先まで近づいていた紫の瞳の輝きが一度冷静を纏い、そっとソファーに腰掛ける。


 ぬるい紅茶を一服いただきながら、エメラお嬢様は語った。


「たしかに……マカミ様は尖った一匹狼の気がありますわね……! ですが、喧嘩屋との対戦のあとにワタクシの手渡したタオルを何も言わずに目を見て受け取ってくれましたわ! まさに言葉ではなく行動! 素敵なところをその目とその背にさり気なく見せるのです!」


 エメラは体験し観察したマカミのことをそう詳らかに嬉しく語り、先ほどイルナの言った感想に乗っかり付け加えた。


「う、うん……?? そ、それはそ──」


 言い出しっぺのイルナにもどことなく心当たりがあったのか、紅潮しながらも、エメラの仕草を真似して冷めた紅茶で乾いた喉を潤そうとする。


「ですのでッ、なんとかあのアイスクリーム屋での汚名を返上したいのです! それだけがどこかまだ……ワタクシの中で悔やまれるのです!」


「へんじょう……マカミくんは、そこまでぇ……特に気にしてないとおもう……けど?」


 エメラは突飛にも、「汚名返上」をしたいと熱く語り出した。アイスクリーム屋でのひと悶着ならイルナもまだ記憶に新しく憶えていることだ。目の前の金髪華美なお嬢様がイルナの悪評を引き合いに出し好条件でマカミのことを自分のパーティーにスカウトするも、マカミに詰め寄られてそのあまりの迫力と青い眼光に気絶してしまった一件だ。


 だがイルナはその後もその一件のことをマカミが引きずっている様子は自分の見た範囲ではなかったと、悪気はなさそうに素直に答えた。


「ええ、ですが! ぜひとも、わたしの知るかぎりマカミ様ともっとも近しいあなたにッ、このワタクシの心に今もなお燻り続ける〝想い〟の解消に、協力してもらいたいのですわ!!」


「協力? ふぇ、ちかしい……??」


 白髪の少女の手を取り、前のめりに詰め寄るのは金髪のお嬢様。


 ロールするサイドの髪型が崩れても強く握ってその細い手を離さない。


 紫の瞳は、輝きを増す。そのお嬢様の発する漲る感情の種類がイルナには読めない。だが、驚くばかりのイルナを凌駕する熱量で、イルナの両手を握り込み包み込む。


 気付けば冷めた紅茶の雫に濡れたお互いの手が、赤目と紫目で見つめ合い、固く結ばれていた。

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