いざ、港町へ!
ユーラはナビゲータの針を確認しながら森を進んでいく。
「〜♪」《闘唄》
今歌っているのは身体能力を上昇させてくれる歌だ。先程の《呪唄》でも出来ないことはないが、効率が悪くなってしまうのだ。
歌自体を変える事で効果を想像しやすく、より効果を強化する事ができる、と、お姉さん達が教えてくれた。想像力によって効果が変わる《呪唄》は応用力はあるが失敗しやすいため、人魚達はもっぱら「ヒレを足に変える歌」として使用している。
ともかく、脚力を強化しながら歩いたおかげもあってか森の中をすいすいと進んで行くユーラ。
(歌っていれば、野生動物達も寄ってこないし、歌の効果も重ねられるから一石二鳥だよね。)
と、前世の熊よけの知識を思い出しながら進んでいくが、そんなユーラの考えを嘲笑うかの如く、ガサガサガサ!と茂みを揺らす音が近づいてきた。音や葉の揺れ方からそこまで大きいものでは無さそうだが、ユーラはビクッと身体を跳ねさせ警戒する。
草むらをかきわけて出てきたのは……ユーラの腰より低い背丈に尖った鼻と耳、木の棍棒を持ち、肌が緑色の、いわゆるゴブリンと言われる生物だった。
「わぉ……ファンタジー……薄々気づいてたけどここ、異世界なんだなぁ……」
ユーラは驚きながらも、一応会話ができるか試すためにゴブリンに話しかけてみる。
「こ…こんにちわ〜…?」
万が一にも話が通じる友好的な種族だった時に後味が悪すぎる、という保身的な理由で話しかけてみたが、相手はヨダレを垂らして目をギョロギョロと動かしており、言葉が通じているようには見えない。
ゴブリンはユーラが1人である事を確信したのかニマァ…!と不気味な笑みを浮かべ、棍棒を振り上げながら襲いかかる。
「水球!!」
ユーラはとっさに魚取りで使っていた魔法を打ち込んだ。魔法はきれいにゴブリンの腹へとあたり、近くの木へ吹き飛ばす。木に打ち付けられたゴブリンはぐったりとして動かなくなった。ユーラはこの魔法は魚を気絶させるのに使っていたため、そこまで威力はないと思っていたが、想像以上に吹っ飛んだ事に驚く。
「し、死んじゃった!?」
ユーラは思わず近寄って様子を見てみると息はしているようで狙い通り気絶しているだけのようだった。
「よかった…。過剰防衛は良くないしね…。報酬が貰えるとかなら話は別だけどまだわかんないし…。とりあえず放置でいいかな?」
そういいながらユーラはそそくさと森を抜けるために足をはやめた。しばらく進むとようやく人が良く通っているらしい小路を見つけ森から出ることができた。ユーラがキョロキョロと辺りを見渡すと少し先にならされた道があり、その道を目でたどると大きな石壁を見つけることができた。おそらくあれが港町の外壁なのだろう。目的地が見えた事にユーラの顔がゆるむ。
道には程々に人が歩いていたり馬車が通っていたりとなかなか港町へと向かう人は多いようだった。ユーラは人の流れを崩さないよう道の端の方から流れに入り込み、初めての港町へワクワクと期待を大きくしながら進んでいった。
だんだんと石壁へ近づくに連れて予想よりも外壁が大きい事にユーラは驚く。つい口を開けたまま外壁を見上げるユーラ。そんな自分に向けられる周囲の微笑ましそうな目に気づき、ユーラは恥ずかしそうに顔を伏せた。門の前には列が出来ており町に入る順番待ちをしているようで、ユーラも同じように列に並んだ。少し待つとすぐにユーラの番となり、兵士から話しかけられる。
「こんにちは、お嬢さん。この町へは観光かな?」
「はい!」
「それじゃあ銅貨3枚だ。どこかのギルドのカードがあれば銅貨1枚になるが持ってるかい?」
ユーラはそんなのもあるのかと思いつつ、今は持っていないため首を振り、鞄から銅貨3枚を取り出し兵士に渡す。両親が地上にいた時に稼いだ中から金貨2枚、銀貨10枚、銅貨20枚を貰ってきていたのだ。
「はい、確かに。貿易都市アークラへようこそ!」
と兵士は笑顔で手を振って見送ってくれた。
ユーラは、テーマパークみたい、と思いながら笑顔で手を振り返し初めての町、アークラへの1歩を踏み出すのだった。




