異文化交流
常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションでしかない……なんて、頭の良い人が言っていたらしい。
これは実にその通りだと思う。
僕の持っている常識が誰かにとっては非常識であったし、反対に他の人が持つ常識が僕にとっての非常識であったりする。
「大切なのはそれらを否定しないことなの」
僕の憧れの先輩はニコリと笑ってそう話していた。
先輩は素敵な女性だった。
まるで同じ人間ではないとさえ思えてしまうほどに形容しがたい美しさを持っていた。
「例えば私の国ではね。皆が一斉に赤ちゃんを作るの」
「あっ、赤ちゃんを皆で……?」
僕が思わず問い返すと彼女は笑った。
「そっ。私の出身地では常識だったのだけど、皆は驚いていてね」
「そりゃ、驚きますよ。普通は……」
「はい。偏見」
ケラケラ笑う先輩を見つめながら僕はモヤモヤした気持ちを払拭するつもりで先輩に聞いた。
「じゃ、じゃあ、先輩もですか?」
「私はまだだけど、今度帰省した時にでも作ってみようかなって」
その時受けた痛みを即座に行動へ移せた自分に百点満点をあげたい。
「それじゃ、僕も一緒に行ってもいいですか? その、なんというか、異文化交流……的な……」
だけど、これは流石に下心全開だし、何よりも気持ち悪すぎる。
三十点以下だ。
「いいよ? それじゃ、今度一緒に行こうか!」
しかし、先輩は思いの他、明るく答えてくれた。
「えっ、本当にいいんですか?」
「もちろん!」
当然と言えば当然かもしれない。
何せ、先輩の出身国ではそれが常識なのだから。
「せっかくだし、一緒に作ってみようか!」
なんてこった。
最上の結果だ。
その時、きっと生涯で一番気色悪い笑みを浮かべていただろうと思う。
……なんて、ことがあったのが数ヵ月前。
僕は今、先輩と二人で赤ちゃんを作っていた。
「そこのパーツは気をつけてね。初めての人って絶対、傷つけちゃんだ」
「……はい」
無機質な機械を赤ちゃんの形に組み立てながら僕は何度目かも分からない問いを先輩にしていた。
「先輩ってロボットだったんですね……」
「そうだよ? 何を今更」
あっけらかんと伝えられる事実にため息をつきながら、僕は周りの人々を見回す。
確かに皆は『赤ちゃんを作っている』。
しかし、僕が想像していた光景と比べれば、まるで工場のような息苦しさを感じて仕方ない。
いや、工場のようなもんか。
「君と赤ちゃんを作れてとても嬉しいよ!」
先輩の笑顔に僕は答えた。
「まぁ、はい。僕も嬉しいっちゃ嬉しいです」
事実ではあるが、なんとも言えない異文化交流となってしまった。




