2章
会社に入るとすぐにあいつがいじめてきた。
「お?今日も来たのか。お前なんていなくても変わらないのにな」
流れるような暴言。ついこぶしを固めたがここで手を上げるのはいけない。逮捕されたくないからね。
「あ、鷹橋さん。来てたんですか。私はいないので話しかけなくていいですよ」
鷹橋漣斗はさっき言ってた嫌がらせをしてくる同期だ。ほかの気の弱い同期や、後輩にも嫌がらせをしている。そのくせ証拠は残さないし、先輩や上層部にはいい顔をしているから本当にうざい。
今日のシフト的に先輩方は来ない。つまり、今日は完全にこいつに支配されながら過ごすことになる。ものすごく屈辱的だ。
苛立ちながら自分のデスクに着くと隣の席の北條咲が話しかけてきた。
「望月さん、だいじょぶですか?なんか、お菓子とか食べます?」
「ああ、ありがとう。ではお言葉に甘えて…」
袋で小分けになっているチョコレートを一粒頂戴する。ほんのりと苦いが、それがチョコの甘みを引き立たせている。結構おいしい。
「ほんっとイライラするわぁ、あいつ~」
「でも、鷹橋くんが一番できるのも事実だし…」
そう。それが一番納得いかない。
いっそのことあいつがこんなことをしているのをお得意先にバラせば…
「いや、ないな。初対面のよくわからない奴よりよく知り合った人の方が信用できる」
どうするべきだろう。
「なんかぎゃふんといわせたいですね」
「そうだね…」
なんとなしに机を見る。パソコン、メモ帳、ペン、ホーク君のキーホルダー、さっきもらったチョコの袋…。ホーク君…。
そのとき、私の脳にあの言葉が響いた。
「正義のもと、悪をさらす」
視界が広がる。
そうか。
そうすればよかったんだ。
そう思うとなんだか笑えてくる。心は青く澄んでいる。美しい青空のようだ。
肩を震わせていると、心配そうに北條さんが顔を覗き込んで――ヒッと顔をこわばらせた。
私はその時になって私の顔が醜くゆがんでいるのを自覚した。




