第3話
三日後、私は荒野の只中にある廃材地帯にいた。
ブリキの箱を椅子代わりにして、正面に立つロボットの腕のメンテナンスを行っている。
彼は初対面で私と問答したロボットだ。
名前はないそうなので、私がアールと名付けた。
背中に塗料で「R」のような模様が入っていたのが由来である。
なんとも安直な理由だが、特にこだわりはないそうで嫌がられなかった。
私は手際よくアールの腕を解体し、内部の汚れを洗浄し、古い部品に油を差しておく。
この作業にもすっかり慣れた。
三日間、ほぼずっと彼らの身体を直しているのだ。
ついでに所持していた発明品を披露したりして、今では友好関係を保っている。
優れたメンテナンスを行える私は彼らにとっても貴重なのだろう。
それにしても彼らの身体は面白い。
未知の金属と繊維素材を主原料に造られており、内部を燃料が血液のように循環している。
ご丁寧にゴムっぽい素材の疑似心臓のポンプまで搭載していた。
おそらく人間の身体構造を機械的に再現しているのだ。
まだ分析は完了しておらず、私でも理解不能な領域も少なくない。
メンテナンスどころか端々まで解体して調べ尽くしたくなる。
作業内容よりその衝動を抑える方が遥かに大変だった。
とにかく異界のロボット達は、私にとって興味深い存在には違いなかった。
(自我を持つロボットが生活する世界か……)
私は足元に置いた水と食糧を一瞥する。
ロボット達から貰った物だが、彼らは摂取できない。
すなわちどこかにこれらを消費する者がいるわけである。
このことについて何度か尋ねてみたが、毎回はぐらかされて真相を訊けずじまいだった。
あまり触れたくない話題なのだろう。
だからと言って私は諦めない。
我ながら知的好奇心が厄介なほどに強いのだ。
メンテナンスを終えたアールの腕を元通りにした私は笑顔で言う。
「これで完了だ。以前よりも動きやすいだろう」
『感謝する。礼は何がいい』
「では君達が敵対している種族について教えてほしい。以前、私を魔術師と勘違いしていたがそれと関連するのかな」
私が単刀直入に訊くと、アールは黙り込む。
また誤魔化されるかもしれない。
そう考えたが、アールは重苦しい口調で語り始めた。
『我々は魔術師と何十年も戦争している』
「発端は何だったんだい?」
『その説明には時間がかかるが』
「じゃあ一旦スキップしよう。要点だけまとめてくれ」
私が手を振って要求すると、アールは少し沈黙した。
気のせいか、呆れられた気配があった。
やがて彼は再び話を続ける。
『魔術師は我々の労働力として捕えている。我々は戦力的に敵わない。だから世界を巡って同胞を製造して』
話の途中、どこからともなく飛んできた火球がアールの顔面に直撃する。
炸裂音と共にアールの頭部が吹っ飛んだ。