第2話
視界が真っ黒に染まって身体が落下していく。
痛みや苦しさはなく、気が付くと荒野の只中に倒れていた。
空は青く、雲のない爽やかな晴天だ。
私はゆっくりと立ち上がって周囲を見回す。
(ここは……時空の裂け目の向こう側か)
つまり私の現在地は地球とは違う。
果てしなく離れた場所に飛ばされたようだ。
時空の裂け目はどこにも見当たらず、再発生する兆しもない。
あれは一方通行だったらしい。
それに関して驚きや悲観はなかった。
帰還手段が消失するのは予想しており、対策も既に考えてあるからだ。
時空の裂け目が無いのならまた生み出せばいい。
設備さえ整えれば十分に再現できる。
そこまでの過程はすべて記憶していた。
だから今は帰還よりも現地調査の方が重要である。
人生初の別世界だ。
きっと未知の物質や現象が山のように待っているだろう。
想像するだけで胸の高まりが止まらなかった。
機嫌よく荒野を走っていると、上空から複数の物体が飛来してくる。
ジェット噴射で減速しながら登場したのは、鈍色のロボット達だった。
計十体のロボットが瞬時に私を包囲し、片腕の砲を向けてくる。
私はその場で立ち止まって両手を上げた。
「待て待て。撃つな。平和的に話そうじゃないか」
『#)%`Q)TW`TU`<T)<TP<』
「ん? もう一度行ってくれるかな」
『”#Q)(TI<I<'F』
ロボットから電子音が聞こえるが、その意味を聞き取れない。
何やら法則性はありそうなので単純に知らない言語なのだろう。
私はそのままの姿勢でじっと待機する。
数秒後、脳に搭載した翻訳機が彼らの言語の解析を完了した。
同時に私の声も彼らが聞き取れるように自動調整される。
「よし、これで大丈夫なはずだ。ハロ―、私の言葉が分かるかな」
『理解可能だ』
今度は意思疎通ができた。
翻訳機は別世界でも有用だと分かった。
一体のロボットが砲を向けながら尋ねてくる。
『魔術師が何の用だ。我々を殺しに来たのか』
「……ふむ。いくつか言いたいことがある」
私は両手を下げる。
ロボット達の警戒心が高まった気がするが、無視して話を続けた。
「まず私は魔術師ではない。発明家のアレックス・モーガンドだ」
私は前に進み出て語る。
近くにいたロボット達が同じ距離だけ後ずさった。
「次に君達を殺すつもりはない。偶然ここに迷い込んでしまったのさ。私有地だったのなら謝る」
私は遠慮なく近付いて砲に触れた。
そしてウインクしながら告げる。
「最後に君達はもう攻撃できない。ハッキングが済んだからね」
ロボット達は慌てて砲を確認し始めた。
たぶん撃とうとしているのだろう。
私の言葉通り、砲が機能しないことを悟ったロボットが尋ねる。
『何をした』
「君達と遭遇した時点でナノマシンを散布していたんだ。私を機械で殺すことは決してできない」
私は世界一の発明家だ。
その立場上、命を狙われることは珍しくなかった。
だからこれくらいの人体改造は必須なのだ。
「さて、この世界は私の知る次元とは異なる場所にあるらしい。少し話を聞かせてもらってもいいかな」
微笑む私は堂々とロボット達に詰め寄った。