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 あわい風が小屋をかすめ、窓をぬける。そして、『錬金釜』のまえにすわりこむ私の頬をなでた。

 私、モリアは見習いの錬金術師。今日も錬金術で料理をつくっている。

 今日の料理は弁当だ。干し肉をこまかくして、きび砂糖で味をつけたもの。


「よし、これで完成。さあ、セタンタさんをよんでこよう」

 同棲している女騎士セタンタさん。彼女が私の料理をたべて、満足そうにわらう顔がすきだ。だから今日も料理をつくる。


「おはよう」

 噂をすればなんとやらで、二階からセタンタさんがやってきた。

 頭に寝癖がついていて、かわいい。


「モリア、今日の食事はなにかしら」

 私は笑顔でこたえる。


「きび砂糖で味づけした干し肉です。一時的に力をあげるバフや傷を回復する効果がついています……どうぞ」

「モリアの料理は最高だわ。いつもありがとう」

「い、いえ……口に合うようでよかったです……」


 セタンタさんは私の手を取り、指先にそっと口づけをした。

 私ははずかしくなって顔を赤くそめる。セタンタはそんな私の頭をそっとなでてくれた。


「もう、ちぢこまっちゃって……この」

「セタンタさん……」


 彼女の手はあたたかくて、さわるだけでしあわせになってくる。

 私たちは見つめあい、おたがいの体温をかんじながら微笑みあった。

 そして私は弁当を詰めた袋を差し出す。


「あの……今日もたくさんつくってきたので、よければみなさんにもわたしていただけませんか?」

 するとセタンタは、私の手を優しくつつみこみながらほほえむ。


「モリアの料理は騎士団のみんながまっているわ」

 私……モリアがセタンタさんに、料理をふるまった『あの日』。

 そこから、私たちは親しい関係になっていた。


「じゃあ、またあとで」

「はい……」

 セタンタさんが小屋から出発するのを見おくる。


「よしッ!」

 私は腕をまくり、今日も修行をはじめた。

 まずは畑の水やりから。井戸水を桶でくみあげて、植物にあたえる。すると葉っぱがつやつやとかがやきはじめた。


 この植物は砂漠にはえる特殊なもの。

 私が錬金術で品種改良をほどこし、普通の畑でもはえるようにした。


 ここからは、弁当のおかずづくりだ。今日はハンバーグをつくろう。

 材料はあいびき肉と玉ねぎとパン粉。


 まず魔法木の葉にレシピを書き、錬金釜についているひきだしにいれる。

 そして、釜の蓋をあけ、材料を投入する。


「最後に素材にねんをこめて、ハァァァッ!」

 魔法をかけて、しばらく時間をおけば……。


「おいしそうなハンバーグの完成〜!」


 セタンタさんにもたせる分はとくに丁寧に、愛情をこめてつくった。

 やはり、魔法をかけてつくるからか、錬金でつくった料理にはバフがつくのだ。

 効果は回復以外にも、病気への抵抗力をたかめたり、解毒作用をたかめたりなど、さまざまだ。


「まあ、こんなものかな」

 ひとしごとをおえ、私はかるくのびをした。

 なんだかおなかがすいたので、あまったハンバーグをたべてみる。


「味見してみよっと……」

 ひとくちかじると……うん、我ながらおいしい!

 私は小さくガッツポーズをする。

 セタンタさんはよろこんでくれるだろうか。


「モリアの料理は美味しいわ」と、セタンタさんはいつもほめてくれる。

 だから私はもっと腕をみがいて、セタンタさんによろこんでもらおう!

 そう意気込んで、私は再び錬金釜にむかって、弁当をつくった。


 夕方。日が暮れ始めた頃……

 ガチャ。

 小屋のドアがひらき、セタンタさんがかえってきた。


「ただいま戻ったわ」

 私は笑顔ででむかえる。

「おかえりなさい。どうだったんですか?」

「ええ、今日は特になにもなかったわ」と言って微笑むセタンタさん。やはり女騎士はつよし……ということかな?


「弁当どうでした……? おいしかったですか?」

「もちろんよ。いつもありがとう、モリア」

「い、いえ……口に合うようでよかったです……」

「もう、ちぢこまっちゃって……この」


 セタンタはそんな私の頭をそっとなでてくれた。

 彼女の手にふれると、やっぱりしあわせな気分になる……。


「セタンタさん……はずかしいです」と私の口からもれた声は、すこしうわずってしまった。そんな自分がはずかしくてさらに顔があつくなるのをかんじる。

「で、今日の晩御飯はなに?」

「それは、その……今日はカレーにしようかなと……」


 あまったカレー粉と野菜、そして干し肉があることだし。


「あら、いいわ。それならあたしも手伝うわ」

「あ、ありがとうございます、けど、私の錬金術で……」と私。


 するとセタンタは笑顔で私の手をとった。


「たまには一緒にしましょう?」

「ひゃ……ひゃい……」


 鍋に干し肉とカレー粉をいれ、水をはる。

 作業をこなしながら、私はかんがえていた。


 セタンタさんはどうして、こんなにキレイなんだろう。


 蜜のような金色の髪に、かわいらしいつり目。

 たかい鼻に、ととのった顔。

 そして、バストが豊満な、スタイルのいい体。


「どうしたの、モリア」

「……いえ」


 私ははずかしくなってしたをむいてしまった。顔が赤くなっているのが自分でもわかる。でも……。


 でも、好きなんだもん! しょうがないじゃん!  

 私は表情をさとられぬよう、うつむきながら鍋をにる。


 となりでは、セタンタさんが野菜をきってくれていた。

 セタンタさんは料理も上手で、手際がいい。


「切り終わったわ」

「じゃあ、鍋におねがいします」


 鍋にきった野菜をいれてもらい、私は木べらでかきまぜる。そのたびに、スパイスがかおりたつ。

 あくをとりながら、しばらくにつめたら、おいしそうなカレーになった。


「セタンタさん、お皿をだしてもらえますか?」

「わかったわ」


 セタンタさんは棚から皿をだし、私はカレーをもる。そして二人でテーブルにはこんだ。


「じゃあ、いただきます」

 スプーンで一口食べると……うん、おいしい!

 セタンタさんが切ってくれたから、野菜が食べやすくなっている。玉ねぎの甘味と、カレーのスパイシーさが絶妙だ。


「おいしいわね」

 セタンタさんも満足そうに、カレーを口に運んでいる。


「セタンタさんのおかげですよ」

「あたしは野菜をきっただけよ」


 カレーの味をかみしめながら、おたがいにわらいあう。

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