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【コミカライズ2026/1/10発売決定!!】乙女ゲームヒロインの『引き立て役の妹』に転生したので立場を奪ってやることにした。【書籍1巻2巻発売中!】  作者: 陸路りん
第三章

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31.危機一髪

 ミモザは斜め前方へと飛び込んだ。勢いのつき過ぎた身体は前転をしながら花畑へと突っ込む。

 ーーすなわち、シンキングフラワーきぬよ達の群れへと。

「おぶっ、うっ、ぺっ、ぺっ」

 起き上がって口の中に入ってしまった葉っぱを吐き出す。どうやら噛みちぎったりはしていないようだが、いまだに「わわわ〜」とコーラスするこれらの体の一部を飲み込んでしまったらと思うと恐ろしかった。

(変な副作用とかないだろうな……)

 ぞっと背筋を凍らせるミモザの背後で、大きな音を響かせながら巨大岩は通り抜けて鈍い地響きの音と共に壁に突っ込んで停止した。

 周囲に土煙が充満する。

「ジーン様! バーナード! 無事ですか!?」

「僕は無事です!! バーナードは!?」

 お互いの姿が見えず、大声で確認するが、バーナードだけ返事が返ってこない。

「……まさか、彼だけ逃げ遅れて……」

「そんなわけないだろう」

 声と共にぬっと黒いフードを被った人物が現れる。その影の下の瞳がじろり、とこちらを睨めつけた。

「少し考えごとをしていただけだ」

 徐々に土煙が晴れる。

「『考えごと』?」

 その言葉にミモザは不穏な空気を感じとる。

 しかしバーナードはその問いかけには反応せず、壁にめり込んだ大岩の方へとすたすた歩いて行ってしまった。

「ちょっと……」

「ミモザさん」

 その背中に声をかけようとして、先に声をかけられ立ち止まる。

 振り返ると、ジーンが静かに首を横に振っていた。

「彼の好きにさせてあげましょう。それよりも……、先ほどの場所を確認しに行きませんか?」

「先ほどの場所?」

「この大岩が入っていた場所です」

 彼は静かに告げる。

「侵入者をこの岩で撃退した、その先に『願いの叶う石』があるかもしれません」

 その言葉にミモザはうなる。

 確かに、その発想は不自然ではない。トラップの先に宝があるのは定石である。

 ーーしかし、

(『ない』んだよなぁ……)

 ミモザは知っている。先ほど、扉が開く寸前に思い出した前世の記憶で。

 あの扉の先にはあの大岩以外存在しないと。

 ステラもそれを確認した上で「『願いの叶う石』など存在しない」と断言していたのだ。

 しかしそれをジーンに言うのははばかられる。

 『前世の記憶』のことなど、ジーンに説明するつもりはないのだ。

 ここは、彼の言葉に従って、素直に確認しに行くのが無難だ。

 ーーしかし、

(面倒くさいなぁ……)

 またあの距離を歩くのか。

 何気に数時間くらいかかったあの距離を。

 ミモザは考えた。そしてひらめく。

 彼女はバッ、と両手を大岩が転がってきた坂道の方へと向けた。

 そのままうなり声を上げる。

「……ミモザさん」

「はい!」

 我ながらいい返事である。しかしうなることはやめない。

 なぜか一歩下がったジーンの前で、全神経を両手へと集中させた。

 じわり、と額に汗がにじんでくる。

「なにをされているんですか?」

「ジーン様」

 ミモザは両手を下げると、ふぅ、と額の汗をぬぐった。

 そしてその海の底のように青い瞳を彼へと向ける。

 その瞳は澄みわたっている。

「今、思念を送りました。その結果……っ!」

 ためを作る。演出は大事だ。

「あの場所には『願いの叶う石』がないことがわかりました……!!」

 やり切った達成感でミモザは天を仰いで目を閉じた。

 これぞ、『超能力で誤魔化そう作戦』である。

 ミモザはいつもおまじないが大好きであり、そのことを隠していない。

 それはジーンも知っているはずである。

 そう、そしてミモザのおまじないは間違いなく、『非常に有効』だった。

 おまじないのおかげで現在のミモザがあると言っても過言ではない。いや、少しだけ過言かもしれないが、半分くらいはおまじないのおかげであるとミモザは信じている。

 である以上、ミモザの超能力に関しても、ある程度の信憑性を彼は感じてくれるのではないか。

(バーナードにも効いたし)

 ちょっと味を占めているミモザである。

 彼女は期待を込めてジーンのことを見た。

 ーーはたして、彼は、

「なに馬鹿なことをいってるんですか」

 冷たい目をしていた。

 絶対零度である。

(あれ?)

 おかしいな、とミモザは首をひねる。

 そうしてジーンの目を手でおおった。

 手を退けた。視線は相変わらず冷たいままだった。

 ミモザの手がぐいっと掴まれる。

「馬鹿なことしてないでさっさと……」

『確認に行きますよ』と、おそらく彼は言いたかったのだろう。

 しかしそれは言うことができなかった。

 ヒュッと風を切る音が背後からしたからだ。

 その音に気づいた瞬間、瞬時にミモザは目の前のジーンを押し倒してそのまま地面を転がった。

「なにを……っ!?」

 驚きにジーンが声を上げるが、その声ごと押さえ込む。

 間一髪。ミモザの髪を数本切り裂いて、『それ』は二人の頭上を通過した。

 『それ』は黒い鞭だった。

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