27.進展
「さて、バーナード。ちょっと作業を中断します」
ミモザのその宣言に彼はちょっと迷惑そうに眉を上げた。
「なぜだ?」
「ひとつ試したいことがあるんです」
そう言うとミモザは二つのアルベルトくん像を拾って並べた。
「この二つをご覧ください」
ミモザの言葉にジーンとバーナードは顔を見合わせると、ぞろぞろとミモザの目の前へと移動してその場で体育座りをした。
その視線が自分とアルベルトくん像に集まっているのを確認して満足そうに頷くと、ミモザは手を動かす。
「なんと、縦に積めます!!」
そしてアルベルトくんの上にアルベルトくんを乗せて、「ジャジャーン!」と口で効果音を言いながら示してみせたが、残念ながらオーディエンスの反応はいまいちだった。
「それ、もう見ましたよ」
冷静なジーンからのツッコミが入る。
「そういえばそうでしたね」
確かに彼に蹴り飛ばされた記憶がある。
「それがなんだって言うんです」
「これですね、他のアルベルトくん像は積めないんですよ」
ほら、とミモザは適当な二つを選んで乗せてみせた。
そのいずれもがどう頑張ってもぐらぐらと揺れてしまい、手の支えを外した途端に崩れてしまう。
「だからそれが……」
「でもですね、この二つだけは積めるんです。しかも絶妙に葉っぱと根っこの部分が絡み合ってがっちりハマります」
ミモザは問題の二つの像をそう言って揺さぶってみせた。しかし像はがっちりとはまって崩れる様子はない。
「他の像は一体もはまらないのにです」
目の前に並んだ二人の顔を、その青い瞳で見つめて彼女は笑う。
「これ、無意味だと思います?」
「……そうか、なるほど」
その時、それまで黙っていたバーナードが口を開いた。
「俺は天才だからな! わかったぞ!」
そう言うがいなや、二つのアルベルトくん像を一気に運ぼうとして、持ち上がらず一旦手を離した。
「おい、お前! 手伝え!」
「え、僕ですか? ミモザさんではなく?」
「そうだ、手伝え。運ぶぞ」
指示されて二人はえっさ、ほいさ、と像を運び始める。
それがミモザの想定していた場所と同じ位置に運ばれているのを見て、ミモザは微笑んだ。
「あの、どうしてこの位置なのか説明をお願いしても?」
台座にひとつ置いた時点でジーンが尋ねた。
「重要なのはこの文章ですよ」
それにミモザはのんびりと紙切れ一枚のみを手に持ちながら歩み寄る。
『方角を間違えると石の場所には辿りつけない』
『12の中で必要なのは2つだけ』
『置くのは1日の終わりと始まりの場所』
『始まりは北にある』
「この四行です」
「これが……、一体どういうことです?」
「『方角を間違えると石の場所には辿り着けない』。まずこれは、アルベルトくん像を置く位置の話です。『12の中で必要なのは2つだけ』。これもそのまま、必要なアルベルトくん像は十二個あるうちの二つだけ、と言う意味。つまりこの二つです」
ミモザは二人が運んだアルベルトくんを指し示す。
「問題は、『置くのは1日の終わりと始まりの場所』。
ジーン様は、『一日の終わりと始まり』と聞いて何を思い浮かべます?」
「……日の出、でしょうか? いやでも、それだと終わりが説明できませんか」
「聞き方を変えましょう。『12個』あって、円状にそれが配置されているもの、そして『一日の終わりと始まり』、ここから連想するものは?」
「……あっ」
ジーンが手を打つ。
「時計!」
「その通りです。つまり、『一日の終わりと始まり』とは、夜中の0時のことを指しているのです」
しかしそこでもうひとつの問題が浮上する。それは、
「しかし、この台座には文字盤が存在しません」
そのため、どこが何時なのかがわからないのだ。
「そこでこの文章です。『始まりは北にある』」
そこでミモザはバーナードがアルベルトくんを運ぶように指示した台座を叩いてみせた。
「ここは、一番の北側、つまりここが『始まりである0時』です」
「このアルベルトくん像は長針と短針だ。だから0時にするために上に重ねておく必要があるんだ」
後半の説明はバーナードが引き取った。
そしてご満悦にふふん、と鼻を鳴らす。
「さすがは超能力者だ! 手伝わせて正解だったな!」
「……そういやあったな、そんな設定」
すっかり忘れていた。
「設定?」
「あーと、それ、置いてみましょうか」
誤魔化すためにミモザは促す。バーナードは首を捻りながらもこの先一体何が起こるのかの期待の方が勝ったのか、素直に手にしていたアルベルトくん像を置いた。
両手を上げたアルベルトくん像の上に逆立ちをしたアルベルトくん像が乗っかる。
その途端、ギリギリギリギリ、という音と共に、像を置いた台座が回転し始めた。
「おお!」
バーナードが声を上げる。
台座の回転と共に地響きの音が響いた。見ると、北側の壁がゆっくりと崩れ、その下から石造り扉のようなものが出現している。どうやら土を塗りたくって他の壁と擬態していたようだ。音はその扉が開く音だった。
大人の身長の縦横四人分ほどの大きさがありそうなその巨大な扉は、地響きの音が止まる頃には全開になっていた。
バーナードがはしゃいだような歓声の声を上げながらその扉に駆け寄る。
「やっぱりか……」
「やっぱり?」
その光景を見ながら、思わずこぼれたミモザのつぶやきにジーンは聞き返した。それに彼女は肩をすくめてみせる。
「『この説明には嘘がある』。おそらくですが、この文章が嘘なんですよ」
「なぜそう思う」
次に問いかけてきたのはバーナードだ。彼は扉に頬擦りしながらもこちらを振り返っていた。その純粋な瞳の前にミモザは『願いの叶う石 隠し場所』の文章が書かれた紙を差し出す。
「二行ほど文章が削り取られているでしょう」
「それがどうした?」
「ということはこの石板自体は元々存在した物で、そこに後から人為的に手が加えられた物なんです。そうでなければわざわざ削り取った後を残す必要などなく、最初から不都合な部分だけを抜いた文章を一から掘り直せばいいんですから」
「……それが、この文章が嘘だという根拠となんの繋がりがある?」
「ということは、ですよ。元々の石板には嘘の記載などはなく、細工として最後の一文、『この説明には嘘がある』を掘り込んだという可能性があります」
バーナードは目をまんまるく見開いた。
エイドから得た手記。あの人物の仕掛けた『細工』というのはおそらく二つの文章を消すことと、混乱させるための余分な文章を書き込むという作業だったのだ。
普通に考えて、箇条書きされた文章の真ん中に更に文章を追加することは難しい。物は石板なのだ。消しゴムで文章を消して新たな文章を追加する、などという真似はできない。
しかし、一番最後の開いたスペースに一行文章を書き足すことは可能だろう。
そこから考えても、一番最後に書かれているこの文章が嘘である可能性は高いと考えたのだ。
「なるほどな……」
彼は納得したようにうなずいた。そして顔を上げる。
「さすがは超能力者だ。感心したぞ!」
「……うん、まぁそうですね」
ミモザは一度瞳を閉じた。
そして開いた。
「すごいでしょう! 僕はなんでもわかるんです!」
「さすがだ!!」
胸を張るミモザに盛大な拍手を送るバーナード。そんな二人を尻目に、
「なんでもわかるんならもっと早く解明してほしかったですけどね……」
ジーンは小さくぼやいた。
「ちちぃ……」
チロがすかさず駆け寄り、慰めるようにその肩を叩く。
「…………」
「ちちっ! ちっ! ちちっ!!」
『ガッツだ! 若人よ!』とチロは言った。
ジーンには伝わらなかった。
「ではさっそく参りましょう」
そんな一人と一匹のやりとりはまるっと無視してミモザは言う。
その桃色の唇は不敵に吊り上がり、海の底のように青い瞳は挑戦的に輝いた。
「お宝探しも終盤です!」
「おー!!」
元気よくバーナードが腕を上げて追従する。
それにジーンはため息をつくと、その後ろを歩き出した。
扉の向こうへと向かって。
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