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【コミカライズ2026/1/10発売決定!!】乙女ゲームヒロインの『引き立て役の妹』に転生したので立場を奪ってやることにした。【書籍1巻2巻発売中!】  作者: 陸路りん
第三章

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26.『この説明には嘘がある』

「でも、わたしはダメね」

 ミモザは顔をあげた。見ると、レイラは自嘲するように苦い笑みを浮かべていた。

 風で彼女の金色の髪がさらりと流れる。

「だって彼に期待しているもの。本当のわたしを笑って受け入れてくれる彼の姿を。だからきっと現実の彼の反応に『がっかり』してしまうわ」

 『彼』とはきっとジーンのことだろう。

 レイラは波ひとつ立たない紅茶の水面をじっと眺めて言った。

「それが嫌でずっと逃げ回っているの」

「…………」

 ミモザは彼女を真似るように静かに視線を落とした。

 そしてゆっくりと目を閉じる。

(否定できない……っ!!)

 ジーンのことである。なにせ彼は金髪美少女に夢見る非モテボーイである。

 レイラのことも金髪美少女というだけでいろいろ脳内補完していたとしても驚かない。

(でも……)

 正直ここまで話していて、レイラはジーンの言う『金髪美少女』そのものではないかと思うのだ。

 柔らかい笑顔に明るい性格、手作りのお菓子に甘いミルクティー、そして輝かんばかりに美しい金髪に透き通る翡翠の瞳。

 どこからどう見ても非の打ち所がない『金髪美少女』である。

 しかし彼女本人はそうは思っていないらしい。

 うーん、とミモザは首をひねった。

「大変申し訳ないのですが、僕にはあなたのどこにジーン様をがっかりさせる要素があるのかわかりかねます」

 その言葉に彼女はきょとん、とした後、「あら」と唇を綻ばせた。

「嬉しいことを言ってくれるのね」

「本心です」

「うふふ、そんな嬉しいことを言ってくれるミモザさんには、これをあげちゃうわ」

 そう言って「あーん」と差し出されたマカロンに、ミモザは遠慮なくかぶりつく。

「……やっぱり問題ないように思えますね。こんなことジーン様がやられたらメロメロでしょう」

「うふふ、そうね。とても喜んでくれて可愛かったわ。でもそれは彼が本当のわたしのことを知らないから」

「『本当のわたし』……?」

「ええ」

 彼女は微笑む。翡翠の瞳が揺れる。

 それはとても悲しげな笑みだ。

「わたしは本物の『金髪美少女』ではないわ」

「…………」

「それに、わたしはもうすぐ居なくなってしまうの……」

 二人の間を風が通り抜けていった。

 金色の髪が日の光を反射してきらきらと輝く。

「ジーン様は、あなたが信じるに値しませんか?」

「え?」

 彼女が顔を上げる。その瞳を真っ直ぐに見つめ返してミモザは言った。

「一度だけでいい。あなたのことを、もし見つけることができたなら、彼のことを信じてその『本当のあなた』を打ち明けてはくれませんか?」

「……そうね」

 彼女は微笑んだ。

「もしもわたしのことを見つけてくれたなら、きっとその時は……」

 それは悲しげで諦めを含み、しかしどこかに希望を探すような、そんな曖昧な微笑みだった。

「彼のことを信じるわ」



 さて、『本物の金髪美少女』とは一体なんぞや?

 などと考え始めると宇宙の深淵はどこにあるのかというレベルの思考の迷子に陥りそうである。

 なにはともあれ、あんな健気な美少女に慕われるなど、

「ちょっと贅沢すぎませんかね?」

「何がですか? それって今聞かないといけない話ですか?」

 うんざりとした表情でジーンは言った。

 あれからミモザは第三の塔へと戻ってきていた。時刻はまだ昼前だ。

 周囲をぐるりと見渡す。

 目の前にはぐったりとしながらも黙々とアルベルトくん像を並べ続けるジーンに、不動の姿勢でメモを取り続けるバーナード、そして地面には放置されたアルベルトくん像が散乱していた。

「まだ何も起きませんか?」

「何かが起きたように見えます?」

 そう返すジーンの表情はやさぐれている。

「全くの無風、全く事態は微動だにしていませんよ。もはや何をどれだけ動かしたのかも覚えていません」

「そこ、間違っているぞ。その両手を上げたアルベルトくんはもう置いた」

 ジーンのミスに不動だったバーナードが淡々とそう指摘する。それに口をへの字に曲げながらジーンは指摘されたアルベルトくん像をどかした。

「ミモザさん、これ、最後まで続けて本当に正解が見つかると思いますか?」

「結論から言いましょう」

 ミモザはジーンの問いかけに深く頷いて言った。

「思いま……、せん!!」

 大きく両手をバツの形に掲げて見せる。

 なぜならば、これで見つかるならもっと先に誰かが見つけている可能性が高いからである。

 おまけにステラが見つけられたのかどうかすら定かではないのだ。しらみ潰し戦法はあまりにも勝率が低い。

「だぁーーっ!!」

 その断言に彼は持っていた像を放り出して仰向けにひっくり返る。

「……もうダメだ。僕はこの無駄な作業を延々に続けて、レイラさんにはもう2度と会えないんだ」

「まぁそうおっしゃらず」

 なだめるミモザに彼は驚異的な腹筋でバネのように勢いよく起き上がると、キッ、と強く睨みつけてきた。

「だいたいですね! なんでそう思うんだったらこんなことやらせてるんですか!」

 それにミモザはきょとん、と返す。

「考えている間の時間が無駄だからですけど」

「む……っ!?」

「謎が解けるまでずっと頭を抱えていても効率が悪いでしょう? その間こうしてしらみ潰しに可能性を消していくことで推論が捗ります」

 ジーンは苦虫を噛み潰したような顔で黙り込むと、

「そこまで言うなら何か思いついたんでしょうね」

 と引き絞るような声で言った。

 その声音は下手な返答でもしようものならお前を引き絞るぞと言わんばかりだ。

 それにミモザはあっさりと、「そうですね」と頷いた。

「え?」

「ひとまず人に『信じてほしい』と言った以上、僕も信じるところから始めてみようかと」

「……は? なんの話です?」

 ミモザはずい、と願いの叶う石の隠し場所について書かれた紙をジーンへと押し付けた。

「これの話です」

『この説明には嘘がある』。

 要するに、この一文が最高にくせ者だった。

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