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【コミカライズ2026/1/10発売決定!!】乙女ゲームヒロインの『引き立て役の妹』に転生したので立場を奪ってやることにした。【書籍1巻2巻発売中!】  作者: 陸路りん
第三章

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25.期待

(なんだ……?)

 一体ミモザの言葉の何が彼女の琴線に触れたのだろう。

「『がっかり』……」

 ミモザがそう繰り返すと、彼女はぴくりと肩を揺らした。

「…………」

 ミモザは考える。

 レオンハルトが恋の妙薬にやられた時、ミモザは『がっかり』したのだろうか。

 そして小さく首をかしげた。

「いえ、レオン様に対してがっかりしたことはありませんね」

「……え?」

 驚いたように向けられた視線を受け止めながら、ミモザはのんびりと紅茶を口に運ぶ。

 今思い返してみても、ミモザがレオンハルトにがっかりしたことは一度もない。

 彼がミモザを殺した犯人かもしれないと疑った時も、自分自身が軟禁された時も、そして今回もーー、ミモザはただ、

「彼と一緒に居られないかもしれない未来が、悲しかっただけです」

 ただ、それだけだ。

 そして今回、ミモザがレオンハルトの謝罪を素直に受け入れることができずに置いてきぼりにした理由はおそらくそこにある。

 いずれは許すと決めているにも関わらず、ミモザは許さない期間を設けて彼をおいてきた。

 それは、彼にも同じ気持ちを味わって欲しかったからだ。

 そのことにミモザは今、はじめて気がついた。

(我ながら子どもだな……)

 口に含んだ紅茶がやけに苦く感じる。そんなミモザのことを見て、レイラは表情を曇らせた。

「……そう、あなたは優しい人なのね」

「それは違うでしょう」

 ミモザはますます首をかしげる。

 彼女が苦しげな表情をする理由がわからない。

 彼女がミモザを『優しい』と言う理由も。

「ただ身勝手なだけでは?」

 彼にも、もう一緒にはいられないのかもしれないというミモザの悲しみを味わって欲しかった。

 それはただの報復行為に他ならない。

 そしてその感情はミモザが一番最初、ステラに対して抱いた意趣返しと全く同じ類いのものだった。

 実に小心者で小者なミモザらしい、みみっちぃ感情である。

 しかしその言葉に彼女は首を振った。

「いいえ、優しいわ。だって『がっかりしない』ということは、あなたが相手に自分の理想の色眼鏡をかけず、ありのままを受け入れているということだもの。一緒にいられないのが悲しいなんて当然よ」

「……、実は今、それに対しての報復として夫のことを避けてまして……」

「まぁ!」

 そこでやっと彼女はうふふ、と小さく笑った。

「ずいぶんと可愛らしい『報復』ね。わたしだったらもっとすごいことをするわ!」

「『すごいこと』……」

「ええ、『すごいこと』」

(一体何をするんだろう……)

 ミモザはちらりとチロのことを見た。

「ちち〜?」

 チロは『深く突っ込まない方がいいんじゃないか?』と助言してくれた。

「…………」

 ミモザはそれに頷くと、お口にチャックをしてレイラに向き直る。

「でも報復は報復ですよ」

 報復というのはつまり、他者を害する行為だ。

「僕は彼の幸せを願っていたはずなのに、正反対のことをしている」

 彼が幸せであればいい。そう思っていたはずだった。

 少なくとも、御前試合の前まではそうだった。

 でも今はどうだろう?

 『幸せを願う』のとは対極の行動をとっている。

「当たり前じゃない」

 その思いのほか強い口調にミモザは目を見張った。レイラの翡翠の瞳はいっそ冷徹なまでに真っ直ぐとこちらを射抜いていた。

「家族なんでしょう?」

「えっと……」

 戸惑うミモザに、彼女はふ、とその瞳の鋭さを和らげて微笑む。

「相手の幸せを願うだけなんて、そんな遠い距離は寂しいわ。あなた自身の幸せと相手の幸せ、その両方を成立させるために感情をぶつけることは必要よ。きっとお相手もそれを歓迎しこそすれ、うとましくは思っていないのではないかしら?」

 その言葉にミモザはハッとした。

 ミモザが怒っていた時、レオンハルトはいやに喜んでいる様子だった。それがミモザにはますます腹立たしかったが、思えば確かに、今回の件は結婚してから初めてミモザが感情をぶつけるような出来事だったかもしれない。

 無言で彼女の顔を見ると、彼女はふふ、ともう一度小さく笑った。

「あなたは優しいのね。優しいから相手に期待しない。でも臆病ではあるのかしら? 自分の感情をぶつけるのが悪いことだと思ってる」

「それは……」

 図星だった。確かにミモザは臆病者なのだろう。

 自分の感情をぶつけることで生じる摩擦をうとましく思っている。

 そしてそれは、かつてまだ故郷の村の中の世界しか知らなかった頃、ひとりでうずくまって何もしなかった時と同じ誤ちだった。

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