19.ジーンとミモザ
「ちょ、ちょっと! ミモザさん!」
それと同時に数歩後ろでやり取りを静観していたジーンが口を挟む。
「何考えてるんですか!!」
「なんですか、今ちょっといいところなんで黙っててください」
それにミモザは振り返りもせずに返した。
すると彼はそれが不満だったらしい。ミモザの肩が背後からガッと掴まれ、そのままガタガタと揺さぶられる。その勢いに耐えかねて、ミモザは手を上げると
「ちょっとタイムで」
とバーナードに告げてジーンのことを振り返った。そしてバーナードに聞こえないように少し距離を取った位置に移動すると、二人でその場にしゃがみ込んでひそひそと話す。
「これまでの会話でわかったでしょう? 彼の方が宝探しを一歩リードしています。協力を要請するんですよ」
「相手は犯罪者ですよ!!」
「ああ、大丈夫です」
なんだそんなこと、とミモザはその懸念に胸を張って答えた。
「途中まで協力させて情報を引き出せるだけ引き出して用済みになったら逮捕すればいいんです!」
「……あれ、聖騎士ってもっとこう正義の味方じゃありませんでしたっけ?」
「正義なんてクソ食らえだ!」
「やめてください!」
悲鳴じみたジーンの制止を振り切り、ミモザは立ち上がる。
「ちょっと! ミモザさん!」
「じゃあ代替案を出してください」
「うっ!」
言葉を詰まらせるジーンに、ミモザは手を叩いて言う。
「現状僕らは手詰まり。目の前には手がかりを持ってそうな男。ほら、代替案を出してください。いち、にぃ、さん、しぃ、」
「や、ちょっ、ちょっと待ってくださいよ! そうですね……」
「ごぉ、ろく、なな、はち、」
「う、えーと……」
「きゅう、じゅうっ!」
「だー! わかりました! わかりましたよ!」
「じゃあ僕の案が採用ということで」
「いいですよ! 乗りましょう、その方法に! ただし!」
まだ何かあるのか、とうろんな顔を向けるミモザに、
「何か危ないことがあったら、すぐに僕の後ろに隠れてください。なんとかしますから」
彼は真剣な表情で告げた。ミモザはきょとんと瞬きをする。
「なんですか、その顔」
「いえ……、でもお気遣いはありがたいですが大丈夫ですよ。発案者は僕なんですから、僕がなんとかします。ジーン様こそ万が一があったらすぐに逃げてください。巻き込まれないように」
「馬鹿なことを」
彼は不愉快そうに眉を顰める。
「あなたの提案に同意してしまった以上、連帯責任です。巻き込まれるも何も、僕は自分の意思でもう踏み込んでしまっているんですよ。そうであるならば何かあった時に矢面に立つのは僕です」
「僕は聖騎士ですよ?」
「単純な対人戦なら僕の方がミモザさんよりも上です」
受け取り方によっては侮っているとも取れるその発言に、しかしミモザは微笑んだ。
「僕、あなたのそういうところ好きです」
ジーンは自分の行動にとても真摯だ。きっとこの件がなにかのトラブルに発展することがあったとしても、彼は本当になんの言い訳もせずに責任を取るのだろう。
(それにジーン様の方が単純な戦力として強いのは本当だし)
御前試合でも結局騙し討ちのような手段を使ったミモザである。
しかし彼はミモザのその言葉に嫌そうに顔を顰めた。
「そうですか。……僕はミモザさんのそういう無謀なところは嫌いですよ」
「まぁまぁそうおっしゃらず。別に僕もなんの考えもなしにこんな馬鹿な真似をしようと言うわけではないんですよ」
にやり、とミモザは笑う。ジーンは笑わなかった。
「一体何を企んでいるんです?」
「僕は犯罪者と正々堂々と戦ったりなんて、しないんですよ」
しー、と人差し指を口元に当ててミモザは微笑む。
それは毒花が咲くような不敵な笑みだった。




