17.奪取
紫のまだら模様の花弁。黒に近い緑色をした茎。そして腕のようにうねる赤い葉っぱ。根っこを足のように回転させて走り回るその姿。
石像のため、色はついていないものの、紛れもなくそれは『アルベルトくん』であった。
「ハズレですかね? これ?」
「うーん、でも手掛かりの石板には確かにアルベルトくんが描かれてるんですよね……」
ジーンの言葉にミモザは腕組みをしてうなる。
そう、『願いの叶う石の隠し場所』には紛れもなくアルベルトくんの絵が描かれているのである。
箇条書きの文章の中にある唯一の絵だ。それがまったく関係のないただの落書きだとは思えない。
「てっきり本物のアルベルトくんが必要になるのかと思っていたのですが、もしかしたらこの石像のことを描いてたのかも知れませんね」
「なるほど、一理ありますね」
とはいえ、これをどうしたらいいのかはわからない。
「とりあえず、もっと宝箱がないかどうかを探して……」
その中身もあらためた上で検討しましょう、と言おうとして、それは叶わなかった。
鋭い速度で何かが目の前を通過し、そしてそれがアルベルトくん像を引っ張ったからだ。
「…………っ!?」
「ミモザさん!」
ジーンが『それ』から守るようにミモザの肩を掴んで引き倒す。
ミモザが『それ』の正体がしなやかな鞭であることに気づいたのは、尻餅をついてからだった。
鋭い音を立てて鞭がしなり、ミモザの頬を掠めて引き戻される。
(あぶな……っ!!)
ぞわりと肌が総毛立つ。
ジーンに引き倒されたおかげでその程度で済んだが、そのままぼんやりとしていたら首を切り落とされていたかも知れなかった。
しかしすぐに気づく。
手に持っていた物がない。
「あ、アルベルトくーん!!」
ミモザは空になった手を見つめて絶望して叫ぶ。と同時にそれに被せるように高笑いが響いた。
「アルベルトくんは俺がもらった!!」
そう高らかに宣言したのは、
「バーナード!!」
保護研究会の五角形のうちの一角、夜の闇のように黒いフードを被った男、バーナードだった。彼は素早く身を翻すと滑るように駆け出す。
「待て……っ!」
間髪おかずにミモザも後を追った。
(まずいな……)
しかし追いかけながらも顔をしかめる。
逃げ足の早さは彼の十八番だ。いつもどこかしらに仕込んだ移動魔法陣によって逃げられてしまう。
どうせこの付近にも移動魔法陣を仕込んでいるに違いない。
ミモザはチロをメイスへと変えると構える。そして振りかぶった。
「届け!!」
地面に叩きつけると同時に衝撃波を放つ。その波は真っ直ぐにバーナードへと向かったが、直線的な攻撃は避けやすい。
彼はひょいっと横にステップを踏むことで簡単にそれを避けてしまった。
「くそっ!!」
「はっはぁ! こんなもの俺には通用しないんだぞ!!」
ミモザのことを首だけで振り返り勝ち誇ったバーナードはーー、
「あ」
「……あ?」
ミモザの視線と背後から急に差した影にふと、視線をずらす。
そこには巨大な土の蛇が立ちはだかっていた。
「……なっ!!」
「逃しませんよ!」
ジーンである。
彼が剣を振り下ろすのと同時に、その巨大な土蛇はバーナードへと襲いかかった。




