15.宝探し
「ーーと、いうわけで宝探しです!!」
えいえいおー、という掛け声と共にミモザは言った。
時刻は早朝の五時半である。
最近暖かくなり、日が伸びてきてはいるものの、まだ周囲は薄暗い。
喋ると冷えた空気が肺に入り、早起きをした達成感を味わうことができた。
「なにが、『と、いうわけ』なんですか……」
しかしそれに水を差すように呆れた声がする。
ジーンである。
彼はミモザに朝早くから叩き起こされ、肌寒さに腕を組んで首をすくめていた。
ミモザは振り返る。
「説明したじゃないですか」
「まぁ聞きましたけど。でもこんな朝早くじゃなくても……。というか、本当にあるんですか? その『願いの叶う石』だなんて……」
騙されているんじゃないか、とでも言いたげな彼に、ミモザは「ち、ち、ち」と指を振ってみせた。
「実はあながち眉唾ではなさそうなんですよね」
レイルからその話をもらったのは一昨日のことだ。何もミモザはその間遊んでいたわけではない。
情報収集をしていたのだ。
彼女は懐から封筒を取り出した。
「なんですか? それ?」
「僕が最近手に入れた情報網からのタレコミです」
そう、ミモザの最近手に入れた『情報網』。
物知りおじいちゃんこと、エイド・ローラルである。
ローラル図書館と呼ばれるほどの蔵書数を誇る彼から、ミモザは情報提供を受けていたのだ。
「彼によると、どうやら高名な学者なども調査を行うほど有名な話のようです」
それこそ考古学などを専攻する者の中ではなかなか有名な話らしい。
とはいえ、本当に『願いの叶う石』と信じられているというよりは、そのような『信仰を得るような何かではないか』という説が主流のようだ。
しかし謎多き試練の塔関連の物である。
本当に『願いが叶う』可能性はゼロではないとの見解の者も一定数いるらしい。
「こちらをご覧ください」
ミモザは封筒から三つの書類と薄い本を取り出した。
二つはレイルから渡された『願いの叶う石』に関する古代語と現代訳の紙面である。
そしてもう一つはエイドから送られてきた論文だ。
「この論文では、削れて読めなくなった部分になんと書いてあったかが分析されて書かれているんです」
「分析って……、一体どうやって?」
「どうやら削れた部分は元の原文の部分より溝が浅かったようです。なので溝の深い部分を特定して文章を再現したようですね」
そしてその部分に書いてあった文章は、
『石はとても大きい』
『石に願うにはひとつ前の願いを削除しなくてはならない』
というものだったらしい。
それともう一つ、論文に書いてあったことは、どうやらこの二列の文章の傷は意図的につけられたものではないか、というものだ。
つまり何者かがこの文章を隠そうとして傷をつけたというのだ。
「……そんなに重要な文ですか? これ」
ジーンが訝しげに言うのもわかる。正直あまり消す必要性を感じない文章である。
特に一行目だ。
ちなみに全文を並べるとこういう文章となる。
『石はとても大きい』
『石はひとつの願いしか叶えられない』
『石に願うにはひとつ前の願いを削除しなくてはならない』
『石はある場所に隠した』
『方角を間違えると石の場所には辿りつけない』
『12の中で必要なのは2つだけ』
『置くのは1日の終わりと始まりの場所』
『始まりは北にある』
『この説明には嘘がある』
「……意味がわかりませんね」
「ええ、これだけだと意味不明です。ですから現在も研究が行われているんです」
「じゃあどうするんですか? 正直専門家が調べてわからないことが我々にわかるとは思えませんが」
ごもっともである。
しかしミモザはふふん、と自信ありげに胸を張ってみせた。
「実はもう一つ手がかりがあります」
そう言って封筒に入れていた最後の一つ。薄い本を示してみせた。
「これはこの石板を書いたと思われる人物の書いた手記だそうです」
昨日の時点でざっと目を通したが、手記のほとんどは平凡な男の日常である。しかしいくつか『願いの叶う石』と関連していそうな部分が見つかり、そのページにミモザはしおりを挟んでいた。
そのページをミモザは開いてジーンへと見せる。
『娘の病をどうにかする算段がついた。思いの外願いには制限があるようだがなんとかなりそうだ。この世の理を歪めるつもりはわたしにはない。しかし問題はアレを使った後だ。可能な限り願いを持続させ続けるためには、アレを隠さなくてはならない』
『やはり元の場所に戻すしかないだろう。あんな巨大な物を隠しておける場所は他にない。しかし、わたしがアレを見つけたように、探し当てる人はいるだろう。そのためにはすべての手がかりを消す必要がある』
『あれからだいぶ悩んだが……、結局、手がかりは少しだけ残すことにした。今のわたしと同じように、切実な願いを叶えたい人がいた時に必要になるだろう。わたしの願いが叶い続けてほしいが、死後も叶え続ける必要はない。しかし生きている間に見つけられては困る。手がかりには細工をしてみたが、あれが一体どれほどの効力を発揮してくれるか……。少なくともわたしが生きている間はあの石板を隠し通さなければ』
「この手記の原本は学者達の中でも一部の人しか見れていない貴重な物ですよ!」
ミモザは胸を張った。
なにせ偏屈なエイドの私物だ。彼は気に入った相手にしか情報を渡さない男だ。
「『細工』ですか……」
その手記を読んでジーンは難しい顔をしてつぶやいた。その言わんとすることを察してミモザは頷く。
「ええ、おそらくは二列の文章を削ったのはこの人でしょう。ちなみに……」
ミモザはパラパラと手記をめくってあるページを見せた。
「あの謎植物に『アルベルトくん』という愛称をつけたのもこの人のようです」
「…………。奇特な方ですね」
「ええ、まったく」
ミモザは心底同意した。もしかしたらこの手記を書いた人物は試練の塔の攻略をしていないのかも知れない。
だとしたらあの謎植物に嫌な印象がないのも頷ける話だ。
「ちなみに『この説明には嘘がある』という文章からして、その『細工』の中には余計な文章をつけたす行為も含まれているのでは? という説もあるそうです」
「……やっぱり無理がありませんか? 僕たちだけで探すのは」
「別にいいんですよ?」
ミモザは可愛らしく首を傾げてみせる。
「石が見つからなくても僕は困りませんし。でも見つかったらレイラさんは喜ぶだろうなー。何に使うかは知りませんけど」
「うっ!」
ジーンは胸を押さえてうめく。
もうひと押しだ。
「じゃあ帰りましょうか。僕は全然構いませんよ。あれ? これが見つからないと困るのって誰でしたっけ?」
「……見つけましょう! 探しにいきましょう!! ほら、ミモザさん! 早く行きますよ!!」
「はーい」
によによと笑いながらミモザは張り切るジーンの後へと続いた。
『願いの叶う石』を探すついでに、セドリックから頼まれている薬草栽培方法についての探究もジーンに手伝わせる算段だからである。




