67.いちゃいちゃとイライラ
「レオンハルト様、ぜひこちらもどうぞ」
「ああ」
豊かなピンクブロンドの髪を揺らしながら微笑む美女に差し出された食事を彼は彼は静かに受け取った。一見そっけない相づちに聞こえるが、そううなずく彼の口元は柔らかく緩んでいる。
その目は真っ直ぐと彼女の紫色の瞳を見つめていた。
そして女性に勧められた食事を一口上品な仕草でナイフとフォークで切り分け、口に含んで微笑む。
「うまいな」
「ええ、そうでしょう?」
女性も頬杖を突きながら彼のことを見つめ、そして真っ赤な唇で微笑んでみせた。
「…………」
ミモザはその光景に無言で砂を吐く。いや、本当には吐けないが、そんな気分で軽く白目を剥いた。
なんだったら唖然としすぎて若干よだれは口角から垂れているかもしれない。
「ちちぃ!!」
『しっかりしろ!!』とチロに頬を張り飛ばされてなかったらおそらく今頃ゲロを吐いていたことだろう。
「あ、危なかった……」
なんとかせり上がってきた胃液を飲み込んで戻し、口元のよだれを袖でぬぐう。
食堂に入って一番目立つ席で、レオンハルトとキャロラインの二人は再び食事を取っていた。
しかしそのラブラブぶりが昨日よりも増している気がする。
(気のせいかもしれないけど……)
もしかしたら良く覚えていないだけで昨日もこんな感じだったかもしれない。別に思い出したくもないが。
ふとキャロラインが入り口にたたずむミモザに気づいてにっこりと微笑み手を振ってきた。それにミモザのこめかみが引きつる。
(レオン様め……)
そしてレオンハルトはミモザの存在に気づいていないはずがないのにガン無視である。腹が立つことこの上ない。
ミモザは一瞬なにか言ってやろうかと口を開きかけて……、すぐに閉じた。
言うべき言葉が思いつかなかったからだ。
(どうしよう、何かしらの文句は言ってやりたいけど……)
二人を言い負けさせられるような気の利いた言葉が思いつかない。
(嫌み……、嫌みってなんだ? こっちの余裕を見せつけるような言葉……、いや、思いつかない)
だって余裕じゃないし。
余裕なんかないし。
「ちちちっ」
おどおどと立ったままうろたえるミモザに、チロが肩から叱咤激励を送ってくる。
「……くっ!」
ミモザはだらだらと脂汗を流しながらも、なんとかそれに答えようと口元に手を当てて大きく息を吸い込むと、
「……ばーかっ! レオン様の巨乳好きーっ!!」
叫んで入ってきたドアから食堂から飛び出した。
ミモザ、聖騎士、御年16歳。
完全なる負け犬の遠吠えであった。
「あらあら、可愛いわねぇ……」
その後ろ姿を優雅に紅茶をたしなみながらキャロラインは見送った。
「ねぇ、いいの? あなたの奥様行っちゃったわよ?」
そしてわざとらしく目の前に座る男ーー、レオンハルトへと尋ねる。
彼はその金色の瞳をわずかに不愉快そうに細めると、
「いい。ほうっておけ」
そう冷たく言い放った。
「もう俺には関係のない人間だ」
そう告げる彼の言葉は冷え切っており、彼のその言葉が本心なのだと確信させるには十分な温度だった。
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