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45 アグラーレンの昼下がり

 アグラーレンの昼下がり、

「見てください、レオン様。これが今回の場所に潜り込むための招待状です」

「手に入れたのは俺だけどな」

 レオンハルトとミモザは木陰で二人、顔をつきあわせていた。

 アズレンからの指示を受けてすぐ、ミモザはアグラーレンとその領主エイド・ローラルについて調べ始めた。

 アグラーレンは第二の塔に隣接する街である。それなりに栄えた大きな街で、主な産業は魔導石の加工、販売である。

 アグラーレンの隣、第三の塔に隣接している街からは魔導石が大量に採掘される。そこからアグラーレンへと魔導石が流れ込み、たくさんの魔導石の加工職人と店舗を抱えたアグラーレンで魔導具へと加工されているのだ。

 つまりアグラーレンは魔導具産業で栄えている街である。

 そんな街を治めるエイド・ローラルはなるほど、アズレンが『偏屈』と称するだけの人物ではあった。

 彼は優れた経営手腕を持った人物である。なにせ元々は第二の塔の観光しか取り柄のなかったこの街に『魔導具の加工』という特産品を生み出した立役者が若くしてこの街の領主となったエイド・ローラルだった。

 彼はローラル家の当主を引き継いですぐに隣町が魔導石で栄えていることに目をつけ、魔導具職人への減税と魔導具品評会なるイベントを催した。そしてその魔導具品評会で優勝した作品をとんでもない高値で買い取ったのである。

 彼が領主に君臨して数年で、魔導具技師は『稼げる職業』として人々の羨望の的となった。

 そうして徐々に職人が増え、技術が洗練されることによってアグラーレンは一躍魔導具の街として繁栄していったのである。

 一方で、彼は孤独な人である。

 若くして妻を亡くし、一人娘は駆け落ちで出奔。それ以降は周囲に勧められても後妻を取ることもなく一人で広大な屋敷に住んでいる。

 出てくるのは当然後継者問題で、親戚達は次々と養子を提案したようだが、彼はそれを嫌って屋敷に引っ込んで出てこなくなってしまった。また、面会を求める者がいても街の商売や運営に関する来客でない限りは門前払いをするという徹底的な引きこもりである。

(アズレン王子の送った使者達もその『門前払い』をくらったみたいだし)

 とはいえさすがに王子の使者相手に門くらいは開いたのか、応接室でひたすら押し問答をして終わったという記載が王宮に提出された公式書類に残っていた。

 そして情報を集める過程で今回、引きこもりで偏屈なエイド・ローラルがある『パーティー』を開くという噂が入ってきたのだ。

 いわく、『駆け落ちした娘の子を見つけるためのパーティー』だという。

 孫にあるはずの『ある特徴』を備えた人々を募集し、それと同時にどの人物が本当の孫なのかを当てる自信のある者も集める。そして無事に本物の孫の判定された者は自身の跡継ぎに、孫を見事探し当てた者には豪華な報酬を与えるというパーティーを開くのだ。

 とはいえ、孫を当てるいわゆる『探偵役』はエイド・ローラルからの指名や紹介制らしい。つまり誰でも立候補できるわけではない。

 ミモザは至急エイドと関わりがあり紹介・推薦をしてくれそうな人物を探し回り、そして身近な人物が判明した。

 灯台もと暗しとはまさにこのことだ。

 ミモザの夫、元聖騎士のレオンハルト・ガードナーは、かつて野良精霊の討伐でアグラーレンに赴き、エイド本人から歓待と労いを受けたことがあったのだ。

 そうしてミモザはレオンハルトの伝手でなんとかそのパーティーに潜り込む『探偵役』の招待状を手に入れたのである。

 そうして今、二人はアグラーレンへと潜入した次第である。

 今回『探偵役』としては現役聖騎士であるミモザが招待され、レオンハルトは夫として付き添いという形での参加である。

 また、パーティーに参加するために二人とも正装に身を包んでいた。

 レオンハルトは黒い礼服をピシリと着こなし、その胸元には青い花を飾っている。豊かな藍色の髪は黒のビロードのリボンで緩く結ばれ、その肩や背中に流れていた。髪で隠されていない左目は美しい金色で切れ長のその目が招待状の文言をなぞる。

「開場時間には余裕で間に合いそうだな」

「そうですね。のんびり歩いて行ってちょうど良いくらいでしょうか」

 首肯するミモザは藍色のドレスを身にまとっていた。首元や袖口には金色で刺繍がほどこされ、スカート部分にも金の装飾が飾られており、まるで夜空に浮かぶ星座のようなデザインのドレスだ。

 美しい金色の髪と海の底のように深い青色の瞳、そして真珠のような白い肌がそのドレスによりより一層引き立っていた。

 そしてその場違いな美男と美少女のカップルの姿は間違いなく周囲から浮いていた。

 昼日中の街中である。大通りには物を売る商人や完成した品を運ぶ職人、そして観光客でごった返している。

 道の隅にいるとはいえドレスアップした姿で招待状を眺める二人の姿は明らかに異質だった。

 良くいえば目の保養、悪く言えば変質者(不審者)である。

 周囲の人々は横目で見ながら、しかし近づき過ぎないように一定の距離を保って通り過ぎて行っていた。

 ちなみに何人かはその『美男』が元聖騎士であることに気づいた様子だったが、あまりの浮きっぷりに声をかける気が起きなかったのかひそひそとささやきながら遠巻きにしている。

「あれ、本物かしら?」

「コスプレ……?」

「これから何かパレードでも始まるの?」

 そんな周囲の声はまるっと無視して、

「じゃあ、行きましょうか」

 ミモザは招待状から顔をあげて言った。

「いざ、エイド・ローラル邸へ」

 そうして二人はのんびりと歩き出した。ちなみに聖騎士を引退してからレオンハルトの歩行速度が以前よりも緩やかになったのは余談である。

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