42 三人寄れば狂宴
第二部第二章です。よろしくお願いいたします。
暗闇の中、ミモザは体育座りで息を潜めていた。
ショートカットのハニーブロンドが暗闇の中でも時々窓から差し込む月明かりを受けてきらりと光る。海のように深い青色の瞳は今は伏せられ、その人形のように整った顔立ちも膝に沈めるように神妙な面持ちで伏せられたいた。
ミモザの心臓はドキドキと緊張で高鳴る。潜めた息が空間に響くのが煩わしく、気持ちを落ち着かせるためになるべく深くゆっくりと鼻から息を吐いた。そして彼女は道具に不備がないかを確かめるようにしっかりと手に『それ』を握り直した。きちんと何度も確認してしっかりと作ってきたはずだが、それでも若干の不安が残る。
この大事な大舞台。しくじるわけにはいかないのだ。
その時、足音がした。わずかに絨毯を擦るように鳴るその音は、ミモザ『達』の前でぴたり、と止まる。
ごくり、と唾をひとつ飲み込んだ。
その瞬間、カッ、とスポットライトが灯る。足下に設置された複数のライトがその足音の主をまばゆく照らし出した。
「はぁ……っ!!」
その気合いの声とともに照らし出されたのは、金髪碧眼の半裸マッチョだった。
ライトにより陰影をより深めた筋肉の筋に、オイルか何かを塗ったのかテラテラと映し出される肉体美。上半身はすべてさらけ出され、下半身には申し訳程度に金の刺繍の入った豪華な腰布が巻かれている。
「むん……っ!」
声とともに彼はポーズを変える。両手を脇に寄せ、体をひねるようにして盛り上がった筋肉に汗の粒がきらりと光った。
ポーズを取るマッチョの両脇には、立派な垂れ幕が掲げられている。
『アズレン王子、筋肉鑑賞会』『声援歓迎!』の文字がそれぞれ躍っていた。ミモザはタイミングを見てとって、ぱっと手に準備していた道具、ーー『こっちむいて!』『王子素敵!』と書かれた扇子を両手に掲げた。そして叫ぶ。
「王子ーーッ!!」
「素敵です!! 殿下!!」
ミモザの隣で同じように体育座りで待機していた男も負けずと声援を飛ばした。
中央学院の助教授で王子の腹心の部下でもあるセドリックだ。
彼は興奮にその暗い紅色の長髪を振り乱し、金縁のモノクルをかけた緑の瞳からは感激の涙を流しながら両手をぶんぶん振っていた。その手には『ファンサして!!』『あなたが最高!!』と書かれた扇子がしっかりと握られている。
「ふん……!」
その声援に応えるように王子は再びポーズを変えた。それにミモザとセドリックは再び歓声をあげて扇子を振る。
「美しいです!」
「さすがは殿下!!」
「ふんん……っ!」
「胸筋がすごい!」
「きゃーっ! 足も見せてー!!」
「むぅぅぅぅんっ!」
王子はガッツポーズをとると観客二人へと目線をむけた。そして白い歯をのぞかせてにかり、と微笑むとその歯がキラリとまぶしく光る。
「きゃーーっ!!」
その様子にミモザとセドリックはそろって黄色い悲鳴をあげた。
「ちぃー……」
そんな様子をミモザの守護精霊であるネズミのチロは冷めた目で背後から眺め、セドリックの守護精霊である蛙のロリスはその頬を慰めるようにペロリとなめた。
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