36 殺虫剤強し
投稿が遅れて申し訳ありませんでした。
ーー数時間後、ミモザの目の前には巨大なゴから始まる四文字の虫の遺体が横たわっていた。
あの後すぐにミモザ達はいろいろな種類の殺虫剤を大量に購入して塔へととって返した。そして煙でいぶすタイプの物やスプレーで退治する物、毒餌を設置するタイプなどを手当たり次第に扉の隙間から投げ込んだのである。
その後しばらく待ってから中に再突入した結果がこれである。ミモザは念のためその遺体を足で蹴っ飛ばしてみたが反応はなにも返ってこなかった。
「死んだか?」
口元にハンカチをあて、塔の入り口に立つレオンハルトがミモザに尋ねる。
中に入ってこないのはさすがレオンハルトと言ったところだ。ミモザは大声で「死んでます!!」と知らせてレオンハルトと教会騎士達を呼び寄せた。
みんな恐る恐る、中には気持ち悪そうに顔をしかめながら『ソレ』の周りに集まる。
その中には応援で後から駆けつけた騎士達も含まれていた。
「いやー、こんなことは俺が教会騎士に就任して以来、初めての珍事だな」
その中の一人である教会騎士団団長ガブリエルは頭をかきながらぼやいた。
そうして周囲の教会騎士達へと手の動きで軽く指示を出す。それを受けた騎士達はてきぱきと動き始めた。
「原因や方法に心あたりもないですか?」
「原因はともかく方法?」
ミモザの問いかけに彼は眉を上げる。ミモザはそのもっともな反応に首を横に振った。
「僕たちが休暇を取っている理由はご存じですか?」
「ああ、『ご身内』の件だろ? オルタンシア様から聞いてるぜ。ーーもしかして今回のこれは……」
「姉が関わってるかも知れません」
「…………そいつぁ」
口元に手を当てて考え込むガブリエルに、ミモザは簡単にことの経緯を説明した。
「……そしてお姉ちゃんが第一の塔にいたと聞いて僕たちはここに駆けつけたのです。その時にはこれが卵の状態でいました」
「なるほどな、まぁ、確かに無関係でもなさそうだが……、けどこれを人為的にってのもなぁ……」
「保護研究会の協力があれば不可能でもあるまい」
割り込んできた声にミモザとガブリエルは顔を向けた。そこには嫌そうに顔をしかめ、口元をハンカチで覆いながらもなんとか入り口から離れて塔の中へと入ってきたレオンハルトが立っていた。
「はた迷惑な連中だが、その技術力の高さだけは確かだ。野良精霊が巨大になるよう改良するすべを知っていてもおかしくはない。卵の輸送は移動魔法陣で可能だろし……、まぁ、なんのためにそんなことをしたのかはわからないが……」
そこまで話してえずくように「うっ」とうめく彼にミモザは慌てて駆け寄るとその背中をさすった。
「レオン様! あまりご無理をなさらないでください」
「……っ、すまない、ミモザ」
「不治の病か何かか?」
その様子に呆れたようにガブリエルはため息をつく。
「まったく、いい年をしたがたいのいい男が……。こんな虫ぐらい克服しろよ」
「年齢と性別は関係ない……」
「そうですよ、ガブリエル様! 不得手なものは誰にでもあります!」
「ふーん。じゃあミモザちゃんの苦手なものは?」
その質問にミモザは真顔で答える。
「あまり親しくない陽キャとのコミュニケーションです」
「……なるほどー」
子どものわがままに付き合う大人のようにガブリエルはうっすらとした微笑みを浮かべて頷いた。
大変遺憾である。
「団長!!」
その時、三人のくだらない会話に終止符を打つように一人の教会騎士が駆け寄ってきた。彼はガブリエルへと真っ直ぐ近づくとその耳元に何事かを囁く。
「……そうか、すぐに向かう。ひとまずは誰も手を触れないようにしてくれ」
「はっ」
頷くとその教会騎士は再び駆けてきた方へときびすを返し、走り去った。
「何があった?」
レオンハルトが尋ねる。
「女神の祝福を受けるための扉が破壊された」
それにガブリエルは簡潔に答えた。
2025年1月20日にTOブックス様より書籍化することが決定いたしました。
本日(11月11日)より予約も開始しております。
これも皆様が本作を読んでくださり、応援してくださったおかげです。本当に感謝しております。
詳しくは後日、活動報告に改めて記載させていただきたいと思います。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。