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34 虫退治!!

 巨大な『例のアレ』が塔の内部を我が物顔で闊歩している。

 そのシュールな光景をミモザは塔の入り口付近に設置されている人の出入管理をしている教会騎士の待機所の陰に隠れるようにして見ていた。

(どうしたものか……)

 相手は超巨大生物である。今この場にいるのはミモザと数名の教会騎士、そしてーー

 ちらり、とミモザは自身の足元を見る。

 顔を真っ青に染めてぐったりと座り込むレオンハルトのみである。

(おかわいそうに……)

 レオンハルトは今、自身の筋力だけで座ることすらできず建物の壁に寄りかかるようにして座っている。

 お姉さん座りのように足を投げ出して壁に斜めにもたれかかるその姿は、まるで海岸に打ち捨てられたわかめのように萎れている。

 ミモザはゆっくりと首を横に振った。

「レオン様……」

 ミモザの呼びかけに彼はのろのろと視線だけを向けた。その目をじっと見つめてミモザは語りかける。

「ここで待っていてください。これは……、この戦いは……、あなたには、あまりにも酷すぎる!」

 くっ、と涙をこらえてミモザは告げる。

 正直レオンハルトの手はすがるほど欲しい。しかし『アレ』に今のレオンハルトを挑ませるのは良心が咎めた。

「……っ!、だが!」

 ミモザの言葉に目を見開き、そして反論するように声を上げた彼の口はそれ以上何も言えずにわなないた。

 彼自身もわかっているのだ、今の自分がとても『アレ』に挑める状態ではないということを。

 レオンハルトは不甲斐ない弟子一人に戦わせることが不安だったのだろう。なんとか身を起こすと葛藤するように顔を上げ、そして塔内をうろうろする巨大なアレを見た途端に、

「……ぐうっ」

 耐えきれずに吐き気を抑えるように口元に手を当てるとその場に膝をついた。

「レオン様!」

「ミモザ……」

 ミモザは地面に倒れそうになるその体をとっさに抱き止める。彼は弱々しく膝の上でミモザの名前を呼ぶとゆっくりと手を伸ばしてきた。

「君に、任せた……!」

 ミモザはその言葉にハッと目を見張った。

 黄金の瞳がミモザを励ますように頷く。

 これは信頼だ。

 レオンハルトがミモザのことを信頼し、頼ることを選択したのだ。

 ミモザははっしとレオンハルトの手をしっかりと握って頷いた。

「お任せください! 一体僕がこれまで何匹の『ヤツら』をほふってきたと思っているのです!」

「頼んだぞ……!」

「チチィー」

『お前らいつまでその茶番を続けるつもりだ?』

 そばで師弟のそのやりとりを見ていたチロは、呆れたように抗議の声を上げた。


「さて、と」

 気を取り直して『鬼退治』ならぬ『虫退治』である。

 まさかステラ達の置き土産がこんな昆虫型の巨大ボス精霊とは予想外だったが、文句を言ったところで目の前の『アレ』がいなくなるわけではない。

 ミモザはチロをメイスへと変えると、大きく空気を切るようにぶん、と一振りして気合いを入れた。

「チロ、行くよ」

 ミモザの声かけにチロはメイスの姿のまま体を震わせて応じた。

 花畑を蹴散らしてミモザは駆ける。その音が聞こえたのか『ソレ』はこちらを振り向いた。

 勢いよく長い触覚が風を切ってこちらに向かってくるのをミモザは姿勢を低くすることで避けて走り続ける。

 そのまま勢いよく『ソレ』の顔面まで接近すると、

「うおりゃぁ!」

 全身を使って身を捻り、その勢いを利用して横面に衝撃波を叩き込んだ。

 『ソレ』はその衝撃波にわずかに頭を揺らした。ーーが、そのまま踏みとどまった。

 黒い装甲にはほんの少し傷がついたが、それだけだ。動作を停止した『ソレ』の目が、ぎょろり、とミモザのことを見た。

「あ、えーっと、……こんにちは?」

 ミモザはとりあえずこてんと首をかしげて微笑む。

 ギチギチギチギチ、と口元を鳴らしながら、『ソレ』は勢いよくミモザの方へと頭を振った。

 ミモザはふっ飛んだ。

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― 新着の感想 ―
昆虫って衝撃にクソ強いんですよねぇ……わざわざ折れたら終わりな支柱(骨)に栄養通したり関節動かすための筋肉とかの柔らかい組織くっつけてるだけの脊椎動物からみたら、アドバンテージなんて恒温動物だってこと…
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