21 乙女ゲームを攻略する?
「行ったか」
話し合いが終わったため2階に上がったミモザの姿を見てレオンハルトは静かにそう言った。彼はベッドに横になって本を読んでいたようだ。
「どうして隠れたんです?」
その姿を見てミモザは首を傾げる。彼はベッドに横になったまま器用に肩をすくめて見せる。
「俺は面が割れている。ルークは時々王都に来ていたからな」
「……なるほど」
王都で行われる式典やパーティーに出席していたということだろう。王都以外に住む人は写し絵でしかレオンハルトのことを知らないため素性がバレにくいが、王都に住んでいる人や一部の貴族は直接目にする機会がある。
レオンハルトの目立つ容姿を知っている人間相手によくもまぁあんな雑な誤魔化し方で誤魔化せたものだと感心するが、もしかしたらルークも弟の件で気が動転していたのかもしれない。
「彼がステラ君の『恋のお相手』か?」
「はい」
ミモザはベッドに歩み寄ると、レオンハルトの足の辺りに腰掛けた。彼は起き上がりはしないがミモザに場所を空けるように少しだけ足を動かす。
「だがステラ君の姿はいまだに見かけないようだな」
「………はい」
仕事の件に関してはともかく、ステラとエオの件に関してはレオンハルトにも逐一情報を共有して相談に乗ってもらっていた。
レオンハルトは難しい表情でしばし目を閉じる。
「前提条件が異なるために君の『未来の記憶』の展開が起こっていないということなのだろうが、だからと言って他の『未来の記憶』の出来事も起きるはずがないと考えるのは少々楽天的だな」
「そうですね、現にステラとエオが一緒に行動するという事象は発生していますから……」
ゲームの展開からはズレてはいる。しかしそれがどのような事態を引き起こすかは謎だ。
少なくとも、元々のゲームの展開がミモザにとって非常に不利益なもののため、ミモザにとって都合の良い方向へと向かう可能性は低いと考えたほうがいい。
「確かなんらかの異常が起きるはずなんですが……」
ゲームではその異常を一緒に解決することで攻略対象者との絆が深まっていくのだ。
「増税の件以外でか?」
「増税は、確かに攻略対象であるルーク様の悩みの種ではあるんですが、それとは別になんかあったと思います」
言うなれば起承転結の転の部分的なことが起こるはずなのだ。増税に関しては承ぐらいのお話だろう。
「なんかとは?」
「なんかはなんかです」
レオンハルトは盛大にため息をついた。口には出していないがその目は「君の『未来の記憶』とやらはやはり何もわかっていないじゃないか」と言っている。
その視線にミモザはうぐぐ、と仰け反った。
ここで「わかっていることもある!」と主張してもどうせまともに取り合ってもらえないだろう。ミモザは必死に頭を巡らせる。
そこで彼女は、はっと閃いた。
「つまり! ステラの代わりに僕が彼を攻略すればいいのでは!?」
ステラがいないから話が進まない。ならばミモザが代わりにステラになりきって話を進めればいいのだ。
「ほぉー」
ミモザのその言葉にレオンハルトは白白とした目で起き上がると腕を組んだ。
「つまりあれか? 君は他の男性を口説くというわけだ。俺という夫がいるにも関わらず」
うっ、と言葉に詰まる。こうなるとレオンハルトは面倒臭いのだ。
「いや、これは緊急措置的に必要な行為であって、」
「へぇ、そうかそうか、君はそういうことをするわけだ」
それだけ言うとレオンハルトはそのまま目をつぶって黙り込んだ。
「あ、あのー、レオン様?」
「好きにしたらいい」
「え」
ぱちり、と左目を開けて彼は言う。
「好きにしなさい」
「い、いいんですか?」
全然良くない気配しかしないが、しかし本人が良いならばミモザとしてはその方法を試してみたい。
「……良くはない」
「はい」
「だが、口出しは控えてやろう」
「…………はぁ」
嫌な予感がする。
というか嫌な予感しかしない。
しかしこうなっては何を言ってもレオンハルトは何をするつもりなのか口を割らないだろう。
(いいのか……?)
悩みつつもミモザはとりあえず試してみるか、といったんレオンハルトのことは横に置いておくことにした。
ミモザはとにかく話を進めたいのだ。
おもしろいなと思っていただけたらブックマーク、評価、いいねなどをしていだだけると嬉しいです。