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【コミカライズ化!】小さくて可愛い文芸部の知的な先輩を、膝の上に乗せたら毎日座ってくるようになった  作者: ゆめいげつ
第一章 椅子から恋人

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第89話 先輩の、出会い2/5

 これは、俺の昔話。

 まだ中学生で、走ることが大好きだった……少し前の俺の話だ。


「推薦、ですか?」

「そう! 名門、新芽高校陸上部は城戸翔くん……君をスカウトしたい!!」


 俺が声をかけられたのは、全国大会の会場でのことだった。


「……どうして、俺を?」

「なに言ってるんだい! 全国大会に出場してメダルを狙える実力者の君を期待しない馬鹿がどこにいるってんだよ!」


 昔から走るのが好きだった。

 走っている時は嫌なことを忘れられ、なにも考えなくて良かったから。走って、走って、走って、とにかく走り続けて、それが楽しくて。

 気づいたら全国大会に出場するまでになって、こうして期待してもらいスカウトされたことが嬉しかった。

 それに推薦なら俺を一人で育ててくれたじーちゃんに楽させてあげられるから。


「お、俺で良ければ……ぜひ! あ、でも顧問の先生に話さないと……」

「もちろんもちろん! 先生はどこ? 一緒に行こうじゃないか未来のスターよ!」


 新芽高校は地元の名門校だ。家から近くて親友の綾斗とも一緒の高校に行ける。

 好きなもので成功し、期待され、なにもかもが上手くいくと思っていた。


  ◆


 でも人生は、そんなに上手くいかなくて。


『も、もしもし救急ですか!? お、男の子が車に轢かれて……!』


 幸せは、なんてことない晴れた日に一瞬で奪われた。


「は、走れ……ない?」

「ああ。残念だけど、今までみたいに走ることは不可能だね。でも安心してほしい。高校入学までには普通の日常生活を送れるぐらいに、ちゃんと治るから」


 走るという俺の普通の日常は、二度と帰ってこないと告げられて。


「おい翔、退院したばっかなんだから無理するなよ? 学校の方も推薦したままで良いって言ってくれてるんだからよ」

「うん、大丈夫だよじーちゃん。ちょっと散歩に行くだけだから」


 それでもそんな簡単に諦められなかった。スポーツ選手になりたいとか、高校でもメダルを取りたいとか、そういった夢みたいなものはなにも無かったけど。


 走ることは俺の人生そのものだったから、失いたくなくて。


「……っぅ!?」


 でも、だめだった。


  ◆


 春になり、新芽高校に入学した。

 スポーツ科は運動だけじゃなくてスポーツ医学の授業もあるので思ったより引け目を感じることはなく、綾斗や新しくできたクラスメイトたちも良い奴ばかり。

 だから少しだけ前向きになって、陸上部へ行く。やっぱり走ることが好きだし……期待してくれたから、少しでも走ることに関わりたかった。


「あー、城戸くん? まあ事故じゃあー、しょうがないよね……」


 しょうがない。

 俺に声をかけてくれた人は、気まずそうに目を逸らして。


「そう、ですけど……なにか俺にも」

「あ、ごめんね城戸くん! 今ちょっと色々と忙しくてさ! お大事にね!!」

「あ……」


 期待とは、なんだったのだろうか。ここなら走れない俺でも受け入れてくれると、俺が勝手に期待していただけだった。


「……だよな」


 あの人たちが期待してくれたのは、走れる俺だ。

 もうほとんど治っているのに、走れないならお大事にと声をかけてくれた優しさがとても痛かった。


「名門陸上部は初心者でも大歓迎!!」


 その帰り道、校門で勧誘している部活動の中に陸上部を見かけた。さっきの人とは別人だったけど、初心者でも大歓迎という言葉に心が冷めていく。その歓迎に、俺は含まれていないのだと理解して。

 だからなるべく隠れて帰ろうとした、その時だった。


「きゃっ!?」

「あ、すんません!」


 一人の女子生徒が、運動部の奴とぶつかって転んだのを見たんだ。

 抱えていたビラが地面に広がって、その小さな女の子は起き上がらなくて。

 倒れる痛さを……俺は嫌という程に知っていたから。


「だ、大丈夫ですか?」

「……え?」


 つい、声をかけてしまった。


「えっと、先輩……ですよね? 立てますか?」

「あ……うん」


 その小さな先輩の手を引くと、驚くぐらい軽かった。


「あ、ありがと……」


 その人は先輩なのに、すごくオドオドしていて。


「き、君……」


 まるでなにかに期待するような目だった。


「……これ、落としましたよね?」


 その期待が嫌で、気づかないふりをして落ちたビラを集め手渡したら。


「ご、ごめんね……」


 この人はなにも悪くないのに謝って。


「あ、あの……良かったら……!」


 その期待が、俺に向けられるのを感じたから。


「部活、どこも興味無いんで」


 逃げ出したんだ。期待してもらって、裏切られるのが……怖かったから。


「あ、ごめんね……」


 それが俺と柚子先輩の、最悪の出会いだった。

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