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第8話 先輩の、にぎにぎ

 柚子先輩は、可愛い。

 今日も今日とて、楽しい文芸部活動なのだが……。


 肝心の柚子先輩はというと、だ。


「……むぅー、むぅー、むぅー!」


 俺の膝の上で、酷くご立腹だった。

 もう一度言おう。


 俺の膝の上で柚子先輩は怒っていた。


 椅子に座った俺の膝の上に乗り、今日は俺に背中を向けているスタイル。

 俺に背中を向けているのにそっぽを向いているせいで、その膨らませた頬が見えて非常に可愛かった。


 怒っても可愛いとか、無敵だった。


「あの、先輩……?」

「……ふーんだ」


 口に出して言うの可愛すぎやしないか。

 しかしいくら可愛くても怒っているのは事実だ。


 柚子先輩が何故こうなってしまったか、それを話そうと思う。

 そう、これには海よりも深く山よりも高い理由があったんだ。

 話せば長くなるんだけど……。


―――――――――


「わりぃ翔……また文芸部の椅子貸してくれねぇ? 急に部活の取材が決まっちゃってさ……」

「良いよ」


―――――――――


 と、いう訳だった。

 つまりまたこの文芸部室の椅子が一つになってしまったんだ。


 そしてそれを柚子先輩に相談しなかったのが俺の最大の落ち度という訳でして。


 だから今日も柚子先輩は俺の膝の上だった。

 そして更に怒っているのだった。


「……君は本当に、さあ」

「すみません……」

「……ボクの決意を何だと思ってるの」

「え、決意って何ですか?」

「……う、うるさいっ!」


 怒られてしまった。

 怒られ中に、余計怒られてしまった。


 怒ってる柚子先輩も新鮮で可愛いけど、笑っている柚子先輩の方が俺は好きだ。

 柚子先輩にはずっと笑っていてほしい。


「……ば、罰として城戸君は今日ずっとボクの椅子だから!」


 いつも通りな気もする。


「いいかい! これは罰だからね! 仕方なくだからね! ボクの意志じゃないからね! 元々、君が椅子になるって言ったんだからね!」


 とんでもない念の押し方だった。

 もちろんそれに対する答えは決まっている。


「はい! 誠心誠意、柚子先輩の椅子になりますよ!」


 誠心誠意椅子になるって、凄い日本語だよな。

 けれどこれで柚子先輩の機嫌が良くなってくれるのなら、俺は新しい日本語だって生み出す覚悟だ。


「じゃ、じゃあ……今から君は椅子だから……動かないでね」

「はい! 何があろうと動きません!!」


 さっきからずっと椅子だったというのは野暮なので言わないでおこう。


「う、動かないでよ……?」

「はい。せん、ぱ……っ!?」


 にぎにぎ。

 にぎにぎ、にぎにぎ。

 にぎにぎ、にぎにぎ、にぎにぎにぎにぎ。


 先輩の、ちっちゃな手が、その両手が、それぞれ、俺の手を、握った。

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