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小さくて可愛い文芸部の知的な先輩を、膝の上に乗せたら毎日座ってくるようになった  作者: ゆめいげつ
第一章 椅子から恋人

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第75話 先輩の、小さなお母さん

「なーんだぁ、彼氏じゃなくて後輩くんかぁー!」


 ててててっ。

 リビングから小走りで隣の和室に駆けていくのはスーツ姿のお義母さんで。


「お父さん、彼氏じゃなかったって!」


 ――チーン。

 お義母さんは仏壇の前で手を合わせるとまた小走りで戻ってきた。


「ごめんねぇ。柚子があんなにも甘えてたから、わたしてっきり……」

「あ、甘えてないよ!?」

「え? でもさっき彼に座ってなかった?」

「……ぁぅ」


 ててててっ!

 またお義母さんが小走りで和室に駆けていく。


「お父さん、柚子がすっごく可愛いのっ! こんな柚子久しぶりに見たっ!」


 ――チーン。

 仏壇の前で二回目を鳴らすお義母さん。

 忙しなくリビングと和室を行ったりきたりしていて、すばしっこい。

 なんていうか、活発に振り切った柚子先輩ってイメージだ。


「……お義母さん、元気な人ですね」

「うぅ……だから知られたくなかったのにぃ……」


 どうやら知られたくなかったらしい。

 つまり俺と柚子先輩のことを知ってるのは檸檬ちゃんだけか。


「あ、私はパパ似だよ?」

「あ、うん」


 何も聞いてないのに檸檬ちゃんが答えた。

 見てわかる通り、お義母さんも小さいのでそれについてだと思う。

 そして、さっきから話題には出ているお義父さんというのは……。


「ふぅ、ごめんね後輩くん。柚子ねぇ、男の子を連れてくるの初めてだからはしゃいじゃったっ!」

「い、言わなくていいからっ!」

「いえいえ、柚子先輩もさっき言ってたのでお気持ちはわかります」

「か、翔くんまでっ!?」

「……まぁっ!」


 ててててっ!

 またまた和室に駆けていくお義母さん、すごい元気だ。


「お父さんっ! 二人はもう名前で呼び合う仲よっ! 普通の先輩後輩じゃないみたいねっ!」


 ――チーン、チーン、チーン、チーン。

 連打される仏壇のアレ。

 絶対そんなに叩いちゃ駄目なやつだと思うけど、お義母さんは止まらなかった。

 楽しそうに、仏壇の遺影に写ったお義父さんと話をしている。


「ご、ごめんね翔くん? ママ、いつもああだから……」


 仏壇で手を合わせるお義母さんを、俺たちは見ていた。

 全員、立ったまま。

 あのまま柚子先輩を膝の上に乗せるのは危なかったし、それが無くても真っ先に柚子先輩がお義母さんに違うって駆け寄っていたからだ。


 柚子先輩の、彼氏かぁ……。


「……翔くん?」

「い、いえなんでも!?」

「…………てへ」


 柚子先輩が隣からジッと俺を見上げていた。

 慌てて視線を逸らすと、ニヤけ顔の檸檬ちゃんと目が合う。

 あれ、逃げ場が無いぞこの空間。


「今日はいっぱいお父さんと話せて良い日だわっ! 外、どしゃぶりだけどっ! えっと、かけるくん?」

「あ、はい。城戸 翔です! 柚子先輩と同じ部活で、後輩と……いえ、後輩をやらせてもらってます!」

「礼儀正しいっ! 柚子と檸檬。二人の母の、(みなと) 蜜柑(みかん)ですっ!」


 ててててっと、戻ってきたお義母さんと自己紹介。

 柚子先輩、檸檬ちゃん、蜜柑お義母さん。

 少し予想してたけど、見事に柑橘系の名前で統一されている。

 危うく、後輩と椅子をやらせてもらってますと言いそうになったのは内緒だ。


「柚子が傘忘れたせいで大変だったでしょ? この子、しっかりしてるようで抜けているところよくあるから」

「ママ!?」

「そんなことありませんよ。柚子先輩にはいつもお世話になっていますから」

「……良い子ねっ!」


 蜜柑お義母さんが感激し、柚子先輩が恥ずかしそうに慌てている。

 こうして柚子先輩と並ぶと本当によく似ているなと思う。

 流石親子だ。


「私もいるよ!」

「え、うん」


 何も言ってないのに横から覗き込んでくる檸檬ちゃん。

 急に現れるとかなりビックリする。

 ていうか、肩に手をかけてきてるのはなんで?


「わかるよ翔くん。ママもお姉ちゃんも小さいからね、うんうん……良いよね?」


 嫌な予感がしたので頷かなかった。

 ていうか柚子先輩も蜜柑お義母さんも目の前にいるのに、答えられるわけない。


「れ、檸檬! 翔くんと近いっ! 近いよっ!」

「いたっ、いたたたたっ! 本気でつねらないでよお姉ちゃん!?」


 回りこんだ柚子先輩が檸檬ちゃんの露出したわき腹をつねっている。

 普通に痛そうなやつだ。


「もー、二人ったらまた……」


 溜め息をつく蜜柑お義母さんの視線の先で、やんややんやしている柚子先輩と檸檬ちゃんを見ていると本当に姉妹なんだなって実感が湧いてくる。


「そうだ、帰りどうするの?」

「帰りですか? 普通に帰ろうかと……」

「なら良かったっ! 柚子を送ってくれたお礼に、送ってくよっ!」

「え、でも……」

「いーのいーのっ! この大雨の中、歩いて帰らせるわけにはいかないからねっ!」


 親指を立てたウインクは檸檬ちゃんと似ていて。

 けど背丈は柚子先輩と近くて。

 ここぞって時の押しが強くて。

 当然だけど、二人の母親って感じで。

 

 家族って、良いなって、思った。

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