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小さくて可愛い文芸部の知的な先輩を、膝の上に乗せたら毎日座ってくるようになった  作者: ゆめいげつ
第一章 椅子から恋人

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第44話 先輩の、接近

「いっ……てて……」


 体が痛い。

 道路のアスファルト程じゃないけど、教室の床は固かった。

 そこに受身も取らずに倒れたんだ、そりゃ痛い。


 あの時に比べれば意識もあるし全然マシとはいえ、学校で感じる痛みの中では中々に上位かもしれない。

 肩、背中、腰が地味に痛い。

 幸いにも頭を打たなかったのと、足に痛みがないから助かった。


 それに腕の中は柔らかさに包まれていて……柔らかさ?


「…………」

「…………」


 柚子先輩の可愛い顔が目の前にあった。

 縁無し眼鏡の奥で、まんまるお目目がこれでもかと見開かれている。

 部室の床に二人で倒れこみ、俺がその小さな体を抱きしめている状態で……。


「……きっ、城戸くん」

「……はっ、はい」


 硬直。

 鼻と鼻がぶつかりそうな距離だった。


「……だ、大丈夫?」

「……は、はい」


 こんな時でも心配してくれる柚子先輩は、優しい。

 そそくさと、いや、てきぱきと。姿勢を正して起き上がる俺たち。

 会話がない、気まずい、どうしよう。ちょっと恥ずかしすぎて顔が見れない。


「え、えっと……あの、その……」

「すいませんでしたぁっ!」

「えぇっ!?」


 即土下座を決め込んだ。

 離れた床に、ただいま。


「危なかったとはいえ俺は先輩を無許可で抱きしめてしまいました!」

「きょ、許可制にした覚えはないよ!?」

「それに先輩の体は細いのに柔らかくて、心配より先に欲求が勝ってしまって……一生の不覚です!」

「や、やわっ!? て、ていうかそんなので一生とか言わないの! と、とりあえず顔上げて! ほら!」


 お許しを貰えたので土下座を止めて顔を上げる。

 同じ顔の高さに柚子先輩の顔。

 柚子先輩も立ち上がらずに床に膝をついたままだった。

 優しい……。


「…………」

「…………」


 また沈黙。

 二人とも文芸部の床に正座して、向き合いながら沈黙。


「そ、その……」

「あ、あの……」


 声が重なった。

 なんてベタな展開だろう。

 けどこれ、めっちゃ恥ずかしいぞマジで。


「な、なにかな……?」

「い、いえ先輩からどうぞ……」

「いやいや城戸くんから……」

「俺のターンは終わったので……」

「ターン制なの……?」


 違う気がするけど頷いておく。

 今度は柚子先輩の番だ。

 どんな非難、罵詈雑言がとんできてもカウンターで再土下座を決める準備は出来てる。

 

「き、城戸君は……嫌じゃ、なかった?」


 よしきた、土下っ……え?


「……嫌、って?」

「そ、そのボク……最近……えっと、夢中になっちゃうと、その、あう……」


 あう……可愛い。


「きょ、今日も……調子に乗っちゃって……君に助けて貰っちゃって……」

「そんな! 嫌だったらちゃんと言ってますから! か、顔を上げてくださいよ!」


 あたふた。

 俯いてしまった柚子先輩に、俺があたふた。

 俺がやっても可愛くない。


「それにほら! お、俺も男なので先輩とくっつけて嬉しいです!!」

「……ほ、ほんと?」

「えっ?」


 柚子先輩が、顔を上げた。

 

 ……あれ、俺、今、何を、言った?


「き、城戸くんも……」


 ずいっ。


「う、嬉しいの……?」


 ずいずいっ。


「ほ、本当に……?」


 ずいずいずいっ。

 ちょっとずつ近づいてきた柚子先輩。

 既に目の前にいるのは俺が動けなかったからで。


「えっと、その……はい」


 思わず柚子先輩から視線を逸らす俺。

 公開処刑が過ぎる。

 この場にいるの俺と柚子先輩だけだけど。

 恥ずかしがる暇があれば柚子先輩の可愛さを堪能したいけど、今は……あれ?


「じゃ、じゃあ……!」

「あ、あの柚子先輩?」


 ずいずいずいずいずいっ。

 まだ近づいてきていた。

 また目の前に柚子先輩の顔がある。

 えっ……近い、可愛い。


「き、城戸くんもってことは、その……先輩も、ですか?」

「…………」

「せ、先輩?」


 目の前で沈黙。

 どんどん顔が赤くなっていくのがわかった。

 柚子先輩はちょっと視線を下げたと思えば、そこから俺を見上げるようにして。


「……うん」


 小さく、頷いた。

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