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小さくて可愛い文芸部の知的な先輩を、膝の上に乗せたら毎日座ってくるようになった  作者: ゆめいげつ
第一章 椅子から恋人

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第43話 先輩の、水分補給

 六月とは思えない暑さの夕日差し込む放課後の文芸部部室。

 外から遠くで励む運動部の掛け声がかすかに聞こえてるだけの空間は静寂で。


 いつもの席に座る俺、その膝の上に正面から跨る柚子先輩。

 距離はゼロ。


 俺の左手は柚子先輩の腰に回して後ろから支え、右手でペットボトルを持っている。

 対する柚子先輩は俺の背中に両手を回してまるで抱きついているかのよう、ていうか抱きついてますこれ。


 顔を上げて、目を瞑り、小さな口を開いて。

 俺に水を飲ませてもらうのを待っている犯罪的な状況を説明するのはもう何回目だろうか。


 こんな現実離れした状況、何回説明したって良いだろう。


 助けてください。

 やっぱ来ないで。

 矛盾。

 スポーツ科一年B組、城戸 翔。


 ……ヤバい俺の頭もおかしくなってきた。


「は、はひゃふぅ……」


 こっちはもっとヤバい感じになってた!

 柚子先輩! 口を開けたまま! 喋るのは! その! なんかアレです! アレ!!

 うわ、歯並び超綺麗だし口の中も……って変態か俺は!?


「はい! 今すぐに!」


 この危機的状況を解決する方法はただ一つ。

 そう、柚子先輩に水を飲ませる。

 シンプル、高難易度、逃げ場無し、ヨシ。


「あー……」


 城戸翔、やります。

 まだ先輩と後輩の関係だけど、料理をあーんとか夢のまた夢だけど、なんかそれ以上のヤバいことしてる気がするけど!


 俺は、柚子先輩に、水を、飲ませる……!!



「し、失礼します……」


 ペットボトルの蓋を開けて、慎重に、慎重に近づける。

 その桃色でプルプルの目に毒な唇に触れたら、そっと角度をつけていく。


「……ん……んっ……んくっ……ん……」


 これは水を飲んでるだけこれは水を飲んでるだけこれは水を飲んでるだけこれは水を飲んでるだけこれは水を飲んでるだけこれは水を飲んでるだけこれは水を飲んでるだけこれは水を飲んでるだけこれは水を飲んでるだけっ!!


 ……背徳感っ!!



「ふあぁ……」


 え、可愛い。

 ぷはぁ、じゃなくて、ふあぁ、なの可愛い。

 

 柚子先輩の口からそっとペットボトルを離す。

 達成感半端ない。


 ……何してるんだろ、俺たち。


「だ、大丈夫ですか先輩?」

「あ、うん……ありがと城戸君……」


 良かった!

 柚子先輩が正気に戻った!

 だけど俺が大丈夫じゃないです!


「城戸君……」

「はい! 何ですか先輩?」


 どんな状況でも呼ばれたらすぐに答えるのが俺です。


「城戸、くん……?」


 おっと?


「え……ボク、城戸くんに、えっ……?」


 あ、ヤバいわこれ。


「……先輩」


 こう、なったら。


「……もう一口、飲みます?」

「ひゃっ、ひゃわわわわわわわわあぁっ!?」


 開き直るしか、なかった。

 駄目だった。

 噴火した火山のように顔が今まで以上に真っ赤になった柚子先輩は勢いよく俺の膝から立ち上がって退こうとしてバランスを――。


「先輩っ!!」

「ふぇっ!?」



 ガタンっ!

 転びそうになった柚子先輩を抱き支えながら、座っていた椅子と一緒に文芸部の床に倒れ込んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ふええ・・・ これじゃあ小さくて可愛い文芸部の痴的な先輩だよお・・・
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