第39話 先輩の、恋占い(柚子先輩視点)
水曜日の朝っていう、なんとも言えない時間。
週の折り返しではあるんだけど日数換算でいうと半分以残ってるから微妙な日。
「はぁ……」
そんな微妙な日、微妙な時間にボクは、微妙な溜め息を吐きながら学校の廊下を歩いている訳で。
その理由は勿論、先輩としての威厳のなさ……やだなこれ自分で言うの。
「……おはよー!」
でもそれだけを天秤にかけるなら、学校に行く楽しみや部活で翔君に会える楽しみの方がはるかに比重が上なボクは笑顔で教室に入っていく。
「キャー!」
「うわだいたーん!」
「もーそんなんじゃないってばー!」
「次ワタシ、ワタシもやって!」
「あっズルい私も私も!」
「はいはい。みんな順番ねー?」
黄色かった。
なんていうか、黄色かった。
黄色い声援というか、黄色い笑い声というか、黄色かった。
クラスメイトの女の子たちが一箇所に集まってキャピキャピはしゃぐ黄色だった。
青春だねぇ、黄色だけど。
でもそこにあるボクの席が巻き込まれてるんだよね。
「ボクの席を返せー!」
という訳でボクも黄色空間に突撃。
「あー! 湊さんおはよー!」
「今日も可愛いね湊ちゃん!」
「いい小ささしてるよ湊さん!」
「一家に一人欲しい可愛さ!」
「うんうん首輪つけて飼いたいよね!」
「ゆずゆずおはよー!」
「どさくさに紛れて危険思想の人いなかった!?」
ちょっと友達でいることを考えるレベルの発言だった気がする。
「ゆずゆずもやるー?」
「あーずるい姫ちゃん!」
「また湊さん甘やかしてる!」
「親友特権乱用はんたーい!」
「でも湊さんのそういう話聞かないからちょっと気になるかも……」
「確かに……」
「え、え……え?」
展開が目まぐるしかった。
まずボクの幼馴染で親友である宮部 姫乃こと姫ちんが話しかけてきて、それに対して反発する子が現れて、かと思えばなんかボソッと呟いた子によって急に納得して全員がボクをガン見してくる。
うん。怖いよ? 普通に。
「今ねー、みんなで占いをしてたんだー!」
と、席に座ったまま満面の笑顔の姫ちん。
うぅ……朝から眩しい笑顔。
いつでも輪の中心にいる姫ちんはまるで太陽のようだ。
本人の大らかな性格も勿論のこと、その百九十センチを越える身長でバレー部のエースとしてバリバリ活躍している存在感の凄さ。
昔は身長、同じだったのになぁ……。
「えー、ボクあんまり占いとか信じないよお?」
スクールバッグを置きながらみんなから送られる期待の眼差しを軽くあしらう。
占いなんて気の持ちようでどうとでもなるんだから、毎回変わる内容で一喜一憂だなんてそんな……。
「そっかー。ゆずゆず、恋占いは興味ないかー」
「うんうん、ボクはそんな……恋占い!?」
「湊さんが食いついた!」
「ってことは好きな人がいるってこと!?」
「囲んで囲んで!」
「スクープ! 特大スクープ!!」
「湊ちゃん熱愛報道の噂は本当ですか!?」
し、しまった罠だ!
に、にげ……逃げられない!
女子高生に包囲されてる! 全員友達なのになんか怖い!
「ではあたしがゆずゆずの恋の行方を占ってしんぜよー!」
「ははー!」
「姫ちゃん先生お願いします!」
「よっ! 新芽高校の母!」
「その身体に包まれたい!」
「流石バレー部次期キャプテン!」
「は、はな……はなしてぇっ!!」
捕まるボク、ノリノリの友達。
そしてボクの前で『真・恋占い6月号』と書かれた本をパラパラと捲る姫ちん。
……真って、なに?
「ゆずゆずはー、誕生日が11月23日の射手座でー、血液型がAB型の生まれは」
「プライバシー! ボクのプライバシーっ!!」
「それでそれで!」
「なんて書いてあるの!?」
「結果は!?」
「どんな人どんな人!?」
「もったいぶってないで教えてよー!」
ボクのプライバシーなんかより占いに興味津々のみんなだった。
「むむっ、出ましたー!」
「ごくっ……」
「ごくっ……」
「ごくっ……」
「ごくっ……」
「ごくっ……」
「みんな口で言う必要ある?」
人の占いでそんな緊張しなくても良いのに。
でもそこまでされるとボクも、気になってきたりしてきたり……。
「ゆずゆずの恋愛運は絶好調! 気になるあの人と急接近ー!」
「キャー! キャー!」
「やったね湊さん!」
「今月もうすぐ終わるからラストスパートだよ!」
「応援してるよ!」
「彼氏できたらその友達紹介してね!」
「み、みんな。はしゃぎすぎだよぉ……」
そんな絶好調で急接近だなんてぇ……。
た、確かに先週から色々と近づいてるけど、ふーん……。
「ラッキーアイテムを大切に身につけておくと恋愛運が最高潮になるってー!」
「なになに!?」
「それが恋のキューピッドになるってことでしょう!?」
「買おう! 湊さん高くてもこれは買うべきだよ!」
「もう持ってるんじゃない?」
「姫ちゃんそのラッキーアイテムはなに!?」
「そ、そんな迷信だってばぁ……」
な、なんだろう……?
「そのラッキーアイテムはー……え?」
「どうしたの姫ちゃん!?」
「そんなに変なものだった!?」
「好きな人の消しゴムのカスとか!?」
「飲みかけのペットボトルだったり!?」
「まさか上履きの片側!?」
「みんなボクをどうしたいの!?」
そろそろ本気で友達のあり方について考えるよボクも。
「うーん、変なものじゃあないんだけどー……」
すごく困った顔の姫ちん。
「……椅子って、身につけられるものかなー?」
「椅子?」
「椅子って、これ?」
「なんで椅子?」
「座って恋愛運上がるの?」
「動かず待てってことじゃない?」
心臓、止まるかと思った。




