第22話 先輩の、おねだり
放課後、二人きりの図書室。
入口正面にあるカウンターの中、俺の膝に座る柚子先輩が顔を真っ赤にしながら、ボクに何でもして良いと言った。
……これは、夢か?
「……ビンタしてください」
「そ、そっち系なの!?」
どっち系?
膝の上に乗ったまま驚いている柚子先輩。
自分の手を見つめ、少ししてから俺を見上げてから。
「……えいっ」
ぺちっ。
痛くない。
けど、柔らかくてあたたかかった。
夢じゃない!
ビンタも優しくて可愛い!!
……って、ことは!?
「ほ、本気ですか!?」
「も、もっと強い方が良かった……?」
「いえそっちじゃなくて、何でもして良いって方です」
「ふぇぁっ!?」
爆発しそうなぐらい赤くなった。
「……い、今のじゃないの!?」
「えっと、はい……」
柚子先輩が俺の顔に触ってくれて嬉しいけど、いやめっちゃ嬉しいな、ありだったかも……けど否定したのを、また違いましたは見苦しいよなぁ。
「じゃ、じゃあボクに……何したいの?」
これは新手の拷問だろうか。
好きな人に何がしたいかを問いただされている。
やっぱり恥ずかしさ我慢大会はまだ続いているみたいだ。
そもそも何でこんなこと始まったんだろう。
うーん。
今日は部活が無くて、寂しいから先輩を観察してて、綾斗と話していたら檸檬ちゃんと会って、暇してると聞いたので図書室で柚子先輩に会って、そして今。
なるほど!
何もわからない。
「こ、これは君の為なんだよ……?」
そしてこれは俺の為らしい。
俺の為に自分の身を犠牲にするなんて……どれだけ優しいんだ柚子先輩。
けれど俺はそんなことは望んでいない。
柚子先輩が少しでも無理をしているなら、止めるべきだ。
だけど、どうやって?
思い出せ、思い出すんだ、俺。
きっと何かヒントが……あっ。
「……なでなで」
「えっ?」
あ、ヤバい口に出しちゃった。
……いやもういくしかない!
「あ、頭を撫でても良いですかっ!」
「ぼ、ボクの!?」
「はい!!」
昼休み、俺は見たんだ。
クラスメイトの女の子たちに揉みくちゃにされながら、頭を撫でられている柚子先輩を!
この暴走を止められて、かつ俺のしたい事も満たせられる!
ちょっと、いやかなり羨ましかった名案だ!
……後輩が先輩の頭を撫でたいなんて、生意気だし引かれないだろうか?
「…………い、いいよ」
こてん。
柚子先輩の、頭が、俺の、胸に、寄りかかった。
可愛い!
「で、でも……は、恥ずかしいから……あまり見ないで……」
ぎゅっ。
小さな手が、俺の制服を、掴んだ。
カワッッッッッッッッッッッッッッッッ!!
「…………」
い、良いのか?
自分で言っておいてアレだけど、俺なんかが先輩の、異性の、好きな人の頭を撫でて良いのか!?
「は、はやくぅ……」
ぷるぷる。
潤んだ瞳が、至近距離で俺を、見上げた。
カッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!
可愛い。
可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛すぎる!!
いつもとは違う柚子先輩。
新しい一面なんてちんけな言葉では言い表せない光景が今、目の前にあった。
「せ、先輩……」
震える手が、ゆっくりと先輩の頭に近づいていく。
それは本能で動き、俺の意志ではもう止められそうになかった。
「……んっ」
近づく俺の手に、柚子先輩はギュッと目を閉じる。
それでも止まらず、俺の手は先輩の頭を。
「し、失礼します……」
――撫でた。
なでなで。
なでなで、なでなでなでなで。
なでなで、なでなで。なでなでなでなで。
「……えへ、えへへへへ、えへへへへへへへへへへへ」
笑ってる。
すっごい笑ってる。
めっちょ気持ちよさそうに笑ってる。
この笑顔、ずっと見てられるな。
だからだろう。
見惚れていた俺の手が、止まっていたんだ。
「……も、もっとぉ」
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
可愛い。




