第21話 先輩の、おさそい
柚子先輩は、可愛い。
カウンター越しに眺めるだけだった可愛さの聖域に、俺は足を踏み入れようとしていた。
「い、良いんですか?」
「うん……来て」
冷房が効いていても、感じるのは暑さで。
図書委員だけが入ることを許されたカウンターの奥に行くだけなのに、なんだかイケないことをしている気分だ。
「こ、こっちだよ……」
「お、お邪魔します……」
そしてついに入ってしまった。
図書室の受付カウンター、その向こう側。
椅子に座り直した柚子先輩が手招き。隣には、もう一脚の椅子があった。
「……す、座って?」
「え、でも」
「だ、駄目……?」
座りました。
速攻で座りました。
座らない理由があるのかと、逆に聞きたい。
「な、なんか凄いですね……」
「う、うん……」
ふわっふわっの、場を繋ぐためだけの会話。
だって仕方がないだろう。
柚子先輩の隣に座ったは良いけど、その肝心の柚子先輩が顔を真っ赤にして俯いてしまったんだから。
「…………」
「…………」
沈黙。
なんだろう、この謎の気まずさ。
図書室のカウンターに並んで座ってるだけなのに、柚子先輩の隣にいるというのに、このままじゃ駄目だと言われているような。
話題だ、話題を探せ。
今日一日見てきた柚子先輩の話……けど翔にストーカーって言われたしな。
じゃあ綾斗の話……スポーツが苦手な柚子先輩に野球馬鹿の話をしても駄目だ。
なら檸檬ちゃんの話……いやまだ俺も檸檬ちゃんのことあまり知らないし、タイプが正反対だから良くないかな。
そうなると、俺の話?
うん、一番ないな。
「じゃあ、座るね……」
座るらしい。
座るらしい!?
「せ、先輩!?」
柚子先輩が、俺の膝の上に、座った。
in 学校の図書室。
「こ、こここっこ! ここ図書室ですよ!?」
焦ってニワトリみたいになった。
流石にいつ誰が来るかもわからない場所で座られると俺だって焦るし、それを見られるのは柚子先輩も恥ずかしい筈だ。
チキンハート万歳。
「ちょ、ちょっとだけだから……」
なるほど、ちょっとなら良いか……とはならないよなこの状況。
正面にはいつ開いてもおかしくない図書室の出入り口、左手には何の変哲もない図書室の風景が広がっていて、その何気ない日常だからこそ実は人がいるんじゃないかと疑ってしまう。
なによりそんな場所で柚子先輩を膝の上に乗せているという背徳感が、凄まじかった。
心臓バクバクだ。
「ど、どう……?」
どう、とは?
上目遣いで見上げてくる柚子先輩が可愛い。
可愛いけどそれどころじゃないです。
「が、我慢できそう……?」
「無理です」
即答です。
いや無理でしょ。
恥ずかしさで爆発しそうだもん。
何これ恥ずかしさ我慢大会してるの?
「えっ!? う、うぅぅぅ……!」
唸ってる、柚子先輩が、唸ってる。
けど終わらない恥ずかしさ我慢大会。
ギブアップしても許してくれないらしい。
「……ほ、ほかには?」
凄く小さな声だった。
だけどこの距離、ていうか膝の上、可愛い声がしっかり聞こえてる、バッチリだ。
「……えっと、他にって?」
「ほ、ほほほほほ……っ!」
柚子先輩まで鳥みたいな声を出し始めた。
放課後の図書室のカウンターで二人、同じ椅子に座って恥ずかしながら鳥の真似。
なんだろう、これ。
「ほ、他にボクに……し、したいことあるっ!?」
柚子先輩にしたいこと!?
なんだその魅力的な提案は!
「……な、なんでも良いよっ!!」
静かな図書室に、精一杯な柚子先輩の叫びが響いた。




