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小さくて可愛い文芸部の知的な先輩を、膝の上に乗せたら毎日座ってくるようになった  作者: ゆめいげつ
第一章 椅子から恋人

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第20話 先輩の、おしごと

 柚子先輩は、可愛い。

 その可愛さはどこにいたって色褪せることはなく、むしろ普段とは違う場所による相乗効果によって可愛いが増すまである。


「え、え? き、城戸くん!?」

「先輩、お疲れさまです」


 微妙な冷房の効いた高校の図書室。

 入って正面にあるカウンターの奥に、柚子先輩がいた。

 今日は話せないと思ってたから柚子先輩の可愛い声が胸にしみる……。


「きょ、今日は部活休みだよ?」

「はい。なので自習でもしようかと……迷惑でした?」

「ぜ、全然全く平気大丈夫だよ!」


 全然全く平気大丈夫みたいで良かった。

 エアコンがあること以外は中学の時と大して変わらない高校の図書室。

 檸檬ちゃんが言ってたとおり、俺と柚子先輩以外に人はいなかった。

 

 カウンターから一番近い机に座ってスクールバッグを置く。

 この位置なら柚子先輩の可愛い横顔がバッチリ見える最高のポジションだ。


「うぅ……今日は大丈夫だと思ってなのに、まだ心の準備がぁ……」


 カウンターでパラパラ、パラパラと本をめくっては戻り、めくっては戻っている柚子先輩。

 きっと一冊一冊、落丁や汚れを確認しているんだろう。

 すごい速度だ。


「れ、檸檬が昨日あんなこと言うからぁ……意識しちゃうじゃんかぁ……」


 何かを呟きながらジッと目の前の本だけを見つめている。

 きっと黙読ではなく声に出すことで、より正確に本のチェックをしているんだ。

 とんでもない集中力。

 流石、柚子先輩だ。


「あ、あまあまぎりぎりむらむら……うぅぅぅ」


 やっぱり読書してる時の柚子先輩は最高に可愛い。

 図書委員としての仕事をしながらも本の世界に旅立って一喜一憂するその姿。

 うん、一生見てられるな。


「……き、城戸くん?」

「は、はい!」


 かと思えば柚子先輩がこっちを見てきた。

 思わず大声で返事をしてしまう。

 図書室では静かに、柚子先輩に呼ばれた時は例外ということで。

 

「そ、その……君にき、聞きたいことが、あるんだけど……」

「わかりました何でも聞いてください!」

「そ、即答だね!?」


 柚子先輩の前だ、隠すことなんて何も無い。

 ……俺が柚子先輩を好きなこと以外は。


「え、えっと……これは例え、そう、例えなんだけど……」

「はい!」

「……き、城戸くんって、我慢強い方?」

「我慢?」


 予想外の質問だった。


「ふ、深い意味はないよ!? ただちょっと気になってさ……」


 そうは言うが、柚子先輩のことだからきっと俺が想像するよりも高尚な意味がある筈だ。

 それにしても、うーん……我慢かあ。


「そうですね。俺、全然我慢できないタイプです」

「え、えぇっ!?」


 さっきも檸檬ちゃんに話したけど、事故で怪我した時は走れなくなって辛かったしなぁ。


「自暴自棄になって、酷いと周りに当たっちゃうかもしれません」

「そ、そんなに……!」


 柚子先輩に出会ったから、最悪の形にはならなかった。

 うん、そうだな。


「柚子先輩のおかげでいつも助かってますよ」

「ぼ、ボクのっ!?」


 感謝は何度伝えたって良い。

 それを思い出させてくれた先輩と檸檬ちゃんに感謝だ。


「……ぼ、ボクのおかげって……助かるって……えぇ……でも……」

「先輩?」


 俯いて、またブツブツ呟きだしてしまった。

 なんだ、今の質問にいったいどんな意味があったんだ?

 そんな真剣な顔をしているということは、俺には到底届かないような思考を張り巡らせているに違いない。


「……ぼ、ボクが……なんとか、しなくちゃ。だ、駄目だよね……」

「あの、先輩?」


 震え出した。プルプルと、先輩の体が震え出した。

 微妙な冷房でも、ずっとここにいると寒いのかもしれない。


「……き、城戸くんっ!」

「は、はいっ!」


 柚子先輩が、立った。

 つられて俺も、立った。


「こ、こっち……来ない?」


 夕陽に照らされた柚子先輩の顔は、真っ赤だった。

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