第16話 先輩の、作戦会議(柚子先輩視点)
「つまりお姉ちゃんは放課後の部室でいつも可愛い後輩の翔くんと二人きり。一度乗った彼の膝と温もりが忘れられず、その優しさに甘えて毎日座っちゃうと……」
「……うぅ」
地獄だった。
今までボクがやってきたことを客観視した上で、それを妹の檸檬に一から全部説明する。
思い出して恥ずかしい、喋って恥ずかしい、恥ずかしさのオンパレードだった。
「うん、エッチだね」
「エッチじゃないよ!?」
「エッチだよちゃんと自覚して! 翔くんがオレサマ系のドS王子だったら今頃お姉ちゃん押し倒されてるよ!」
「お、押し……!?」
「でも待って。翔くんから椅子になるってことは、純粋ドM後輩ワンコ系ヒーローかもしれないね!」
「……ボクにもわかる言葉で喋ってくれない?」
「総じてエッチ」
「総じてエッチ!?」
こ、この子は実の姉のことを何だと思っているんだろう。
昔は物静かでボクの後ろにぴったりとくっついてきて可愛かったんだけどなぁ。
「今度こっそり隠し撮りしてきてくれない?」
「絶対ヤダよ!?」
「えー、翔くんの上に乗って頭が沸騰しそうなお姉ちゃんが見たいだけなのにー!」
「だけの範囲を超えてるよ!!」
ボクの痴態なんて見てどうするつもりなの。
「じゃあ写真! せめて翔くんの写真見せて!」
「え……」
「写真ぐらい良いでしょ? お姉ちゃんが好きな相手なんだし、私も知っとくべきじゃん?」
「いや、あのさ……」
「え、もしかして人には見せられないエッチな隠し撮りだらけとか!?」
「違うよ!! そ、そうじゃなくて……写真、一枚も、無くて……」
「…………え?」
何でそんな信じられないものを見た、って顔するの?
「……あー、じゃあSNSのアカウントでも」
「知らない……」
「……い、今から自撮りを送ってもらうとか」
「連絡先も知らない……」
「嘘でしょ二ヶ月も何してたの!?」
「健全に部活動だよ!!」
「後輩男子の膝上に乗ることの何が健全なの!?」
「うぐぅ……」
か、勝てない……。
積み重ねた正論がボクを襲ってくる……。
「好き、なんだよね?」
「うん……」
「それで連絡先も聞いてないの?」
「た、タイミングわからなくてそのまま……」
「同じ部活なのにそれじゃ不便だったでしょ?」
「部室に行けば、いつでも会えるし……」
「惚気っ!!」
「惚気!?」
そんなオーバーリアクションでベッドに倒れこまなくてもいいじゃんか。
ほらシャツが捲れて、おへそ出ちゃってる。
「……わかったよお姉ちゃん!」
うわっ、ビックリした!
「お姉ちゃんの為に私が一肌脱ぐよ! あ、エッチな意味じゃないからね!」
「わかってるけど……な、何するの?」
「チッチッチ、恋は駆け引きが重要なんだよお姉ちゃん」
「か、駆け引き……?」
ちょ、ちょっとだけそれっぽい。
「そう駆け引き! 押してばかりじゃ駄目、たまには引かなくちゃ!」
「ひ、引く……そ、それなら明日ちょうど図書委員があるから部活は休みだけど……」
「いいじゃん! 一時的に距離を置けるから翔くんを焦らせるね!」
「じ、焦らす!?」
「そこを誘惑すればイチコロだよお姉ちゃん!」
「待って!」
「その時もすぐには座っちゃ駄目、ギリギリまで待てをしてムラムラさせるの!」
「待ってよ!」
「そう! これこそアマアマギリギリムラムラ既成事実大作戦――!」
「待ってってば!」
駄目だこの子、夢中で何も聞いてくれない!
「とりあえず気になるから明日、翔くんに会いに行って良い?」
「駄目!」
「えー! ちょっとだけ! ほんの少しだけ!」
「ちょっとも少しも駄目!!」
「……ちぇー」
「駄目だからね!?」
「……はーい」
うぅ、絶対に相談する相手を間違えたぁ……。




