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小さくて可愛い文芸部の知的な先輩を、膝の上に乗せたら毎日座ってくるようになった  作者: ゆめいげつ
第一章 椅子から恋人

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第14話 先輩の、寝ている隙に

「せ、先輩……?」

「……すぅ……すぅ」


 寝ている。

 完全に眠ってしまっている。

 俺の膝の上に乗り、横を向いて、体を俺に預け、丸くなり、寝ている。


 柚子先輩は、可愛い。柚子先輩は、可愛い。柚子先輩は、可愛い。

 可愛いは、柚子先輩。可愛いは、柚子先輩。可愛いは、柚子先輩。


 いつも頭の中で呟いてきた言葉を繰り返してみても、その並びを変えてみても、ドキドキは収まらなかった。


「あの、俺の、名前……」

「……すぅ……すぅ」


 言ったよな? 絶対に言ったよな、今。

 間違いなく言ったよな!

 だって黒船にカケルって名前の乗組員いないよな!?

 いや知らないけどさ!!


 ……よ、よし。


「ゆ……柚子、先輩?」

「……すぅ……すぅ……」


 呼んじゃった!

 柚子先輩を名前で呼んじゃった!

 

「……なー、にー……?」

「うおわっ!?」


 ま、また返事した……。

 ゆ、柚子先輩。本当に寝てるんだよな……?


「……先輩?」

「……すぅ……すぅ……」


 寝ている。


「……柚子先輩?」

「……んぅ……ん……」


 もぞもぞ動いている。


「柚子せんぱ……おっと!」

「えへへぇ……」


 またずり落ちそうになったので肩を掴んで膝の上に戻した。

 うん、やっぱり寝てる。


「……はぁ」

「……すぅ……すぅ……」


 寝ている柚子先輩の椅子になりながら、溜め息。

 眠っているから、眠っているおかげで、眠っているせいで、心が落ち着いていく。


 どうして俺の名前を呼んだんだろう?

 どうして俺の膝に毎日座るんだろう?

 どうして俺の上で眠ってるんだろう?


 考えても考えても、答えは出ない。

 後輩として信頼してくれているのだろうか。

 そうなのだとしたらとても嬉しい。


 だけど裏を返せばそれは、異性として見られていないという事じゃないだろうか。


「柚子先輩?」

「……すぅ……すぅ……」


 ……それは、嫌だなぁ。


 新芽高校に入って、柚子先輩に出会ってまだ、二ヶ月と半分。

 俺が生きてきた時間と比べれば圧倒的に短い。

 それでも話す度に、会う度に、見る度に、惹かれていく。


「……すぅ……すぅ……」


 可愛い柚子先輩を見ているだけで、俺は幸せだと思ってた。

 いや、まあ……今の俺、椅子だからちょっとは前進、したんだろうか?


 ――だけど、その先には踏み込めなくて。


「…………はぁ」


 もう一度、溜め息。

 チラリと部室の時計を見上げてみれば、そろそろ学校のチャイムが鳴る時間だ。


 昨日の光景を思い出す。

 目を閉じた柚子先輩の顔。


「……すぅ……すぅ……」


 それは今日も同じ。

 だけど昨日と今日じゃ、まるで違った。

 ある意味、止めてくれたとも邪魔をしたとも言える学校のチャイム。それも今日は、俺の味方だ。


「……柚子先輩」



 時計の針が動いた。

 いつものチャイムが、鳴り始める。



『キーンコーンカーンコーン』



『キーンコーンカーンコーン』



「好きです」



『キーンコーンカーンコーン』



『キーンコーンカーンコーン……』



 いつものチャイムが、鳴り終わった。



「……先輩、起きてください。帰る時間ですよ」

「んーう…………う? ……うわああっ!? え、あ……き、城戸くんなんで!?」


 うん、いつもの柚子先輩だ。

 俺が好きな、柚子先輩。


「寝ぼけて俺に座ったの覚えてません?」

「うええっ!? お、起こしてよぉ!」

「すみません。寝顔が可愛かったので、つい」

「か、かわっ!? あぅ……も、もおー! からかわないで今すぐに忘れてよー!」


 これが今の俺の、精一杯だ。

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