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第1話 先輩の、椅子になる

 先輩は、可愛い。

 そして先輩は小さくて、可愛い。

 具体的には身長が百四十センチぐらい、可愛い。

 でも学年トップの成績でとても賢く、可愛い。

 つまり先輩は小さくて賢くて可愛い、俺が好きな人である。

  

 先輩の名前は、みなと 柚子ゆず

 背が小さい事を気にしている高校二年生の女の子だ。

 俺は心の中で柚子先輩と呼んでいる。


 アシンメトリーの肩にかかる黒の片三つ編みで、丸く大きな瞳の上に縁なし眼鏡がとても似合っていて可愛い。

 放課後はいつもこの文芸部で、俺の向かい側に座って黙々と本を読んでいる。

 夕陽に照らされるその姿がとても神秘的で、俺はそれを見るのが大好きだった。


「君が座るべきだよ」


 それが今、失われようとしている。

 俺と柚子先輩は現在、机を挟んでバチバチに対立していた。

 その原因はこの文芸部室に残された最後の椅子のせいだった。


「先輩を立たせる訳にはいきません! 先輩が座ってください!」

「いいや、君が座るべきだ! 可愛い後輩なんだから遠慮しないで!」


 ……俺、可愛いって言われた!

 いやいや可愛いのは先輩だけど、好きな人に言われると嬉しい・


「……良いかい? 椅子が足りない野球部にこの部室の椅子を貸したのはボクだ。つまりこれは部長であるボクの責任なんだから、君がこの椅子に座りたまえ」


 ボクっ娘の先輩は言うまでもなく最高だし、責任感があるところなんか尊敬するしかないだろう。

 けど、俺にだって負けられない言い分があるんだ。


「いえ、急な練習試合で観客用の椅子が足りないと言っていた野球部の友達に文芸部の椅子が余ってると言ったのは俺です。だからこの椅子は先輩が座るべきです!」


 そう、ことの発端は俺にある。

 スポーツ科があるこの新芽高校(しんめこうこう)はスポーツに力を入れている。

 そのおかげか野球部もそれなりに強いのだが、今年は史上最高と言われる天才イケメン一年生が入ったのでそれはもう話題の引っ張りだこで取材やスカウトが凄いらしい。

 だから観客用の椅子も急遽足りなくなって……いや、そんな事はどうだって良いじゃないか。


 今、この瞬間も……柚子先輩を立たせてしまっているのだから!


「それでも君が座るんだ。君は足を怪我しているんだから」

「ぐぅっ……」


 柚子先輩が優しい!

 俺の足を気遣ってくれた! 

 う、嬉しい……ハッ!?


「どうしたんだい? 早く座りたまえよ」


 俺を言い負かしたと思い込んでニヤニヤしている柚子先輩は国宝級の可愛さだ。


 駄目だ、俺はそんな柚子先輩が椅子に座って黙々と本を読む姿が見たいんだ。

 ページを捲るたびに、ふふっと小さく笑う可愛い仕草が見たい。

 けど、俺の足を気遣ってくれる先輩の優しさを無駄にはできない。


 どうすれば柚子先輩が満足する形で椅子に座らせ、座らせる……ハッ! 

 そうだこれなら……!


「……分かりました。座ります」

「うんうん、素直でよろしい」


 満足げな柚子先輩は腰に手を当てて胸を張りうんうんと頷いている。

 当然だけど小さな先輩は、お胸も小さい。


 それが良い。


「先輩、俺からも一つ提案があるんですけど」

「なんだい? ふふっ、可愛い後輩の頼みなら何だって聞いてあげるよ?」


 チョロい、可愛い。そこが良い!


 言質は、取れた。


「じゃあ、俺の膝の上に乗ってください。俺が先輩の椅子になるんで」

「ああ良いとも。君の膝の上に座るぐらい……って、うええええっっ!?」


 途端に柚子先輩の顔が真っ赤になった。

 

 何度でも言おう。


 先輩は、可愛い。

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