『肝心な時にないマジックペン』
「あれはどこにある?」 ガムテープで封をした段ボールの前でそうつぶやいた。 段ボールには大学生活で集まった数えきれないレジュメが詰まっている。 就職先が遠方に決まった俺は、今荷物のまとめに追われてい。
「おおっこれは!」 深い地層の中から見つかったのは小学の教科書 「そういえば、小学といえば、教科書に墨で塗りつぶさせられたな」 そう。ここ、ここ。なんて書いてあるんだっけ、マジックでなぞれば読めるはず
マジックを取り出そうと、カバンを探る。 ふと我に帰った。 そんなもの持ってきているはずがない。 こんな大自然の中に。
そう。我に返るとそこは深い緑に包まれた森の中。なぜだ?俺は荷造りをしていたはずでは?まとまらない思考に翻弄されながら、何とか記憶の糸を手繰り寄せようとするが・・・ 答えは出なかった。
―――まじっく、、、まじっく、、、――― 森には何かの鳴き声なのかうめき声か、暗い音が響いていた そうだ! 俺は探していたんだ! 「何を?」 あれ、俺は何?
思えば、こんなところで俺は何をしているのだろう。 意識が遠のく。 いや、これは記憶が抜け落ちているんだ! 僅かながら残った理性がそう告げた。 "覚えておかなければならない" メモだ!何か!何か書くもの
いや、その書くために必要な「あれ」がないのだった。記憶が頼りにならない今、本当に必要なもののはずなのに・・・
「にゃぁ」 「へ?」 さっきまで誰もいなかった森に黒猫が現れた。 「やべっ! 伝票書かないと! ありがとなクロ」 (二章 猫とマジックペンへ続く)
執筆: ts, 旱川, nu.