表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第二話「リハでやれれば満足?そして、始まる本番!」

 音楽番組のリハといっても、ライブハウスでやるようなものとだいたい同じだ。


 アンプにギターを繋げ、音の調整をしたり演奏中の立ち位置を確認する。


「曲のサビに入ったら、ニカメのほうに目をやって歌ってください」


 俺はスタッフから、カメラワークの説明を受ける。テレビに映るのだから、テレビ番組らしい絵が欲しいらしい。


「なー! 早くリハをやっつけて、エロゲーソングを弾こうぜ?」


「ばっ……ばか! スタッフがいるのに、でかい声で話すな」


 ヘイゾーがドラムの前で構えながら、俺にそう声をかけてくる。慌てた俺は、後ろへ振り返って首を横に振る。


「え? エロ……なんですって?」


「いや、なんでもないです! 気にしないでください……ははは」


 不思議がっているスタッフに、俺は誤魔化す。


「それじゃあ、本番だと思って曲の演奏をお願いします」


 そう伝えたスタッフが去り、俺たちは実際に本番を意識して弾き始める。


 ーーギュワァァン! ジャッジャカ!


 映画の主題歌にもなった、俺たちの曲。


 やはり、ギターで弾く自分の曲は素晴らしい。


 気持ち良さそうに弾く俺は、そんなことを思いながらマイクに向かって歌う。


 ーーああ、なんてメガロウルフの曲ってかっこいいんだろう。


 エロゲーソングなんて、とんでもない。俺が歌って弾くのは、こういうメジャーな曲なのだ。


「はい! オーケーです!」


 わずか一分五十秒ばかりの、短い演奏。


 スタッフからオーケーサインが出ると、俺たちは弾くのをやめる。


「生放送の音楽番組とはいえ……短すぎる!」


 出演するアーティストの演奏時間は、一組につき約二分以内。


 番組用にアレンジしているけれど、あまりにも短すぎる。


「短縮したにも、イントロを弾いてすぐサビに入るのって……どうなのよ」


「仕方ないんじゃない? テレビだもの、番組の進行ってものもあるし」


 隣でギターを弾いていたトクさんが、俺に答える。


「つーかよ! エロゲーソングだよエロゲーソング!」


「そうだそうだ! リハは終わったんだろう? 弾こうぜ弾こうぜ」


 エロゲーソングソングをやりたいとまた叫ぶヘイゾーに、マツナガも加わる。


 時間を確認すると、たしかに予定より早く終わった。


 次のアーティストがリハに入るまでは、空き時間はある。


「スタッフさんが次の準備している間に、ささっと弾こうか……マサキ」


「トクさんがそう言うなら……まあたしかに、弾かないとあいつらがやかましいですからね」


 ゴールデンタイムの音楽番組ステージで、エロゲーソングを弾く機会など、まずない。


 どんだけこいつらが演奏したいのか、理解できないが、ここまで来たらやるしかなかった。


「けどいいか、ちょっとだぞ? ほんの少し演奏するだけだからな?」


「わかってるわかってる! ちょろっとだけな」


 俺の言葉にヘイゾーが答えると、待ってましたと言わんばかりに、ドラムスティックを構える。


 マツナガもベースを構えて、いつでも弾ける体勢でいる。


 ーー普段のバンドも、これくらいやる気があればなあ。


 はあっとため息をつきながら、俺はスタッフが遠くにいるのを確認した。


 なるべく気づかれず、目立たないようにしてマイクスタンドに向かう。


「それじゃあ、やるぞー。 ワンッ、ツー」


 俺がカウントを取ってスリーを言おうとした時、突然こちらに向かって叫ぶ声。


「あっ! すみませーん。この後にシャイニーズさんのリハが始まるんで、そこをどいてもらっていいですか?」


 まさにエロゲーソングを弾こうとする俺たちに、現れた別のスタッフがそう話す。


「んだよ! これからって時にー。まだ、時間が余っているだろう!」


「それが、シャイニーズさんのリハを早めろって上から言われたものでー」


 ヘイゾーが機嫌悪そうにスタッフに話すと、そう返事が返ってくる。


 シャイニーズは、日本でも有名な国民的アイドルグループだ。事務所もかなりの権力があり、俺たちが所属するところとは雲泥の差であった。


「まあ、この音楽番組ってアイドルグループが必ず毎週出演するくらいだからね。特別な扱いを受けるはずさ」


 トクさんの言うように、なにかしら忖度があるように思う番組だと俺も思う。


「それじゃあ、番組とはズブズブの関係じゃねーか! これが、音楽業界の闇ってやつかよ」


「しょーがねーだろ。エロゲーソングは諦めて、ささっと楽屋に戻ろうぜ」


 曲を弾けなかったことに腹を立てるヘイゾーたちは悪いが、俺自身は安堵する。


 これでメガロウルフの曲に、集中できるだろう。


 ーーヘイゾーたちには後で説得して、別の機会にエロゲーソングでも弾かせてやるか。


 俺はそう思いながら、みんなを連れて楽屋に戻る。


「しかし、なぜアイドルグループが贔屓されるか俺にはわからない!」


「スタッフの話だと、今日は別会場から中継を繋いでパフォーマンスをやるらしいよ? それで、歌いながらスタジオのステージに戻るみたいな」


「かああああ! それはまあ、手の込んだ演出だこと! いくら番組に金を払ってんだ」


 楽屋に戻ってきても、まだ不機嫌なヘイゾーたちがそう話している。


「とりあえず、落ち着け! 俺たちみたいなバンドを出させてもらえるだけ、感謝だろうが」


「でも、今夜のタイムテーブルを見たけど……バンドでやるの俺たちだけみたいだな」


 マツナガがそう話すと、タイムテーブルが書かれた紙を俺に手渡す。


 たしかに、今日の出演者リストにはバンドマンが俺たちしかいない。


 ーーシャイニーズ。JTO48。西山カンナ。GOヒロミツ。


 書かれたアーティストたちは、ほとんど楽器を弾かない方々。


「曲をかけて歌い踊るタイプの人たちばかりだな……」


「あー、うらやましい! 俺たちも口パクならぬ、エアーバンドにしてくれんかな!」


 嫌味っぽく話すヘイゾーに、みんなは苦笑いを浮かべた。


「とにかくだ! 俺たちは、生演奏で会場を盛り上げるぞ!」


 あきらかにやる気を消失しているみんなに、俺はもう一度鼓舞する。


 ーーガチャリ。


 そう話していると、またもや楽屋のドアが開く。


「失礼しまーす! すみません、メガロウルフさん。番組がスタートした後のトークについて、打ち合わせをしたいんですが」


 スタッフがスタジオの中に入ってきて、番組内で司会者と話す時の内容などを確認する。


 ほとんどが映画についての感想と、主演俳優への話。そして、サプライズで登場する俳優に対するリアクションなどだ。


 ーーメガロウルフについては、なに一つ話題にしないんだな。


 話し合っている俺は、そう思いながらスタッフに相槌を打っている。


 これだけで、俺たちに対する扱いがよくわかった。


「という感じで、お願いしますー」


 ひとしきり打ち合わせを終え、スタッフは去っていく。


「くだらねー! 俺は一言もしゃべらねーからな、マサキに全部任せたわ」


 同じ打ち合わせを聞いていたヘイゾーが、投げやりの言葉を口にする。


 それに合わせて、マツナガやトクさんもうなずく。


 先ほどの打ち合わせで、さらにみんなのやる気がなくなっていくのを感じる。


「まっ、まあ……ライブができるだけ、ありがたいと思ってだな」


 そう話す俺だったが、みんなと同じような気持ちになっていく。なんとも言えない雰囲気の中、淡々と時間だけが過ぎていった。


 そして、ついに音楽番組が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ