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スターライト・テイル  作者: 夕月 星夜


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4

「声が盗まれてる?」

「多分……魔力がまだここに残ってて、しかもそれがほそーくだけど繋がってるね。何かに声を移してる、が正しい気がする」


そう言うと、少女は何度も頷いて見せる。どうやらアンジュの仮説は正しいようだ。


「解呪するより、盗んだ声を移してるものを壊したりする方が安全そう。ああでも、それにはお姉さんが壊す時に近くにいないと歪むかもしれない……? うん、そうね。あんまり遠距離でいると、盗んだ声が消滅して二度と声が出ないとかになりそう」

「では、その盗んだ相手を探すべき、ということでしょうか」

「探さなくても、向こうからやってきそう。盗んだ声を使うには、結局お姉さんが近くにいないと駄目みたいなの」


不安そうにする少女に対し、大丈夫だよとアンジュは笑う。


「安心して、お姉さんたちは私たちが守るから。コーラルさんが助けた人だもん、私たちも守るよ」


アンジュがそう言ったのには訳があった。

カイル、アンジュ、セインの三人は『銀の明星』という名で冒険者ギルドにパーティー登録をしている。

前衛を剣士のカイルと精霊獣であるセインが、後衛を魔法使いのアンジュが担うパーティーであり、火力面での問題はない。防御系の魔法も簡易のであれば習得できている。しかし、致命的に足りないのが回復だ。普段は薬を買ったり回避することで回復を使わなくとも対処は出来るものの、強敵と相対するにはやはり回復や防御に優れた仲間が欲しい。

そんな時、協力してくれているのがコーラルだ。ヴェルデの森で賢者ハインラインに師事する薬師であり、フェイから魔法を学んだ回復と防御に特化している。

コーラル自身も普段はヴェルデの森に住んでいるのだが、薬の材料調達に外へ出るなどの時にカイルたちに一緒に行ってくれるよう頼むのだ。

持ちつ持たれつな関係であり、お互いの苦手分野を補っている。そしてお互いが協力する時の約束事として、互いの本分を尊重するというものがあった。

コーラルの本分は薬師だ。相手が誰であれ自らが治療した時点でその相手は患者であり治るまで面倒を見るべきである、という信念がある。

つまりこの青年と少女はコーラルの患者であり、協力を求められて受けた以上カイルたちにとっても二人は庇護対象になったのだ。


「とりあえず調べたけど、家に戻るまで追手が来ることはなさそう。かなり遠く……多分リペラメールのあたりかな」

「そこまでわかりますか」

「うん。でも、私が辿れるってことは同じように向こうも辿れるってこと。そのお兄さんが動けるようになるまで家に匿うのは正解だと思う」

「アンジュが言うならそうだろうね。それに、相手の情報も必要だし……ギルドで聞いてみる?」


カイルがそう言った時、少女が慌てた様子で首を振った。何度も何度も首を振って拒絶を示す。


「落ち着いてください。あなたが嫌なのはわかりましたから」

「嫌なことはしないけど、情報が何もない状況じゃ守れないんだ」


コーラルとカイルがそれぞれ声をかけるが、少女はただただ拒絶を示すばかり。

それを見ていたアンジュが、少し考えてから口を開いた。


「お姉さん、確認させてね。お姉さんは声を取り戻したい?」


その言葉に少し考えて、それから小さく頷く。けれどその視線は青年に向けらるとまた不安そうな色を帯てしまう。


「いっこずつ、確認しよう。お姉さんが嫌なこと、したくないの。お姉さんは声を取り戻したくはあるけど、そのお兄さんに何か悪いことが起こるのは嫌、であってる?」


今度はこくこくと頷く。少し明るさを取り戻した瞳はまっすぐにアンジュに向いており、何かを期待するようなまなざしになっていた。


「じゃあ嫌なのは、お兄さんのことが他の誰かに知られること?」


――それはまるで、大輪の花が咲いたようだった。アンジュの言葉に頷いた少女はこぼれんばかりの笑みを見せ、大きく頷く。

わかってもらえて嬉しい、そう言っているのがありありとわかる笑顔にカイルは先程セインと交わした言葉を思い出す。


「……古い光と、暗い血の匂いだっけ」


まだ年若いとはいえ、冒険者として様々な場所で人と出会っている以上、相手が信用できるかどうか見抜く力はそれなりにあるはずだ。そんなカイルの目に、少なくとも少女が嘘をついている様子は見られない。

おそらくセインの言う古き光の民の末裔とは少女であり、暗い血は青年のことだろう。それでも少女は青年を気遣い、青年もまた少女を案じているようだった。

そしてなにより、多くの患者を診てきたコーラルが、二人を家に匿ってほしいと頼んでいるのだ。

コーラルがカイルたちに危害を加えそうな人だと少しでも思ったならば、信頼できる場所を紹介して欲しいというだろう。それは何かあった時に対処ができる場所という意味であり、間違ってもカイルたちに迷惑がかからないようにする、それは薬師としての信念を曲げないための約束だ。

そのコーラルが、カイルたちの家をとわざわざ頼んでいる。


「お姉さん。さっきアンジュも言ったけど、大丈夫だよ」


たとえ二人にどんな秘密があったとしても、コーラルが患者と二人を言って庇護するのならばカイルたちもそれを尊重するのだから。


「二人は僕たちが守るし、嫌なことは聞かない。声も取り戻せるよう動くから。ね、アンジュ」

「うん。だから、そのために必要な情報はちゃんと教えてね」


力強く答えるアンジュと笑顔で頷くコーラル、そしてカイルを見つめ。

声はないけれど確かに、少女はありがとうと微笑んだ。




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