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スターライト・テイル  作者: 夕月 星夜


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これまでのどこか胡乱気で気だるげな雰囲気をかなぐり捨てたかのようなクイグに、カイルはどうしたものかと頬を掻く。

本当に困っているのだ。訓練を邪魔された事ではなく、こちらに向けられた感情に。

クイグがこちらを警戒するように、カイルもある程度警戒をしてはいた。コーラルの判断、実際に見た状況、アンジュの態度。カイルにとっての篩を見事に通過し、更には家憑き妖精にも是とされる存在。

戦闘能力はあるだろう。用心深い性格も悪くない。金銭にすぐさま飛びつく様子もない。

はっきり言ってこれ以上ないほど、探していた使用人の条件に当てはまっていた。

そんな彼が、こちらを警戒していた彼が、こうして飛び出してきた。傷が痛むのだろう、少し歪んだ表情に浮かぶのは焦りと――心配だ。

それも、カイル達に対しての。


「そんなの、欲しくなっちゃうじゃない」


自由になったのだ、この先の事は自分で決めればいい。好きな生き方をすればいい。

自分達がそうして貰えたように、いくつかある選択肢の一つとして考えて貰えればいいと思っていたのに、そんな顔をされたら本気で勧誘したくなる。

まいったな、と呟いた声はアンジュにも届かなかったようだ。


「ええと、クイグさん。これね、仮想の敵だから大丈夫よ」

「は? 仮想?」

「うん。心配させてごめんね。今戻すから」


アンジュの近くにある石の台座に手をかざすと、倒れる盗賊もゴブリンも森も、すべて一瞬で掻き消える。目を丸くするクイグに対し、アンジュは申し訳なさそうな顔になっていた。


「私とカイル、朝にこれ使って戦闘訓練するようにしてたの。特にほら、これから戦う相手を練習したいなって……驚かせちゃったね、先に言えばよかった」

「仮想空間ってやつか」

「そう。匂い以外は全部再現可能なんだよ」


アンジュが頷いたと同時にクイグはその場に座り込む。額から流れた汗は厚さではなく痛みからくる脂汗だ。わき腹を押さえた姿にアンジュとカイルは慌てて駆け寄った。


「ちょ、まさか傷口開いたの!? アンジュ!」

「うん!」


カイルが支えに入り、アンジュは屋敷へと駆け出す。荒く息を吐くクイグからまだ血の匂いはしていない。


「無理したんでしょ」

「咄嗟に動いてしまったものは、仕方ないだろ」

「だからって」

「あいつらかと、思ったんだよ」


あいつら、という言葉に押し黙る。誰を指しているのかは聞くまでもない。

クイグと共にシルフィーリアを攫い、逃げる際に手傷を負わせた元仲間の事だ。


「ごろつきを雇って、隙を狙ったり、人質を取ったりする、奴がいる」

「なるほど、それと間違えたと」

「ああ……すまない」

「謝るのはこっちだよ。気配に敏感なんだろうし、配慮してなかったから」


謝るカイルに首を振り、クイグは口の端を吊り上げる。


「いつもならこんなへまはしない……わかったからには、ちゃんと回復に専念するさ」

「……じゃあ、怪我の功名って事だね」


努めて明るくカイルが笑うと、クイグは何度か瞬きをした。


「怪我の、功名?」

「無理させちゃったのは申し訳なかったけど、クイグさんの気配察知がどれくらいの物かわかった事と、クイグさん自身が自分の怪我の具合と体調について理解出来たからそれはよかったなって」

「……ああ、なるほどな」


納得したらしいクイグの顔に、淡く笑みが浮かぶ。これまでの頑なな雰囲気を綺麗に洗い流したような、素の覗いた笑みだ。

それをまともに見て、カイルは思わず口を開く。


「クイグさんってさ」

「なんだ」

「笑顔を使い分けたら、凄い女の人達に人気でそう」

「は?」

「なんだろう、とびきり美形だとか勇ましくて頼りがいがありそうな男性とか、そういう感じでもう四方八方女性を魅了するって感じじゃないんだけど、なんかこう……普段は落ち着いていて穏やかなのにいざという時は冷静に対処してめちゃくちゃ頼りになりそうな感じ。で、女性に警戒心持たせにくい雰囲気があるから、笑顔の印象ひとつで評価が大きく変わりそう」


大真面目にそう言われたクイグはどう反応したらいいのかわからないという顔になっている。

それもそうだろう、なにしろそんな評価を出したのが、まだ十二歳の子供なのだから。


「あ、コーラルさん来たね」

「あ、ああ」


カイルの言葉に顔を動かせば、心配そうな顔のコーラルと泣き出しそうなアンジュが屋敷から駆けて来る。

おかしな連中だ、とクイグは内心苦笑した。出会ったばかりの、しかも暗殺者の自分を心底心配しているのだから。そしてそれを受け入れている自分も、今まででは考えられなかったが、悪くない。


「大人しく、寝ておくか」


おそらく無茶をしたと叱られるだろうなと思いつつ、思ったよりもしっかり支えてくれているカイルに少し寄りかかる。

先程よりは痛まないものの、まだ少し動きたくない。これくらいはいいだろう、そう思う時点で心を許し始めている事に、クイグはまだ自分で気づいてはいなかった。




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