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スターライト・テイル  作者: 夕月 星夜


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「アンジュ、準備はいい?」

「いつでも!」


早朝、まだ街も朝の仕事以外は動き出していない時間。裏庭と呼ぶ一角の石造りの広い空間で、カイルとアンジュは対峙している。カイルの右手には模造剣が、アンジュの左手には鞭がそれぞれ握られていた。


「それじゃあ始めようか。今日は……どこがいいかな」

「んー、対人想定の森でいいんじゃないかな?」

「じゃあ盗賊とゴブリンでやろうか」

「わかった、じゃあ始めるね」


アンジュがそう言うと、石造りの床が仄かな光を放つ。と、思うとそこは何故か森に変わっていた。

質感どころか音も再現されたこれは大賢者が修練用に作ったという仮想空間だ。ここで再現されたものはすべて触れられ、使い方を誤れば怪我も負う。同じものが城の修練場やリーンの大きな都市にはあるものの、いまだ再現には至っておらず新たに作るのは現状無理とされている。

稼働方法はただ一つ、充分な魔力を注ぎ込む事。簡単そうだがこの規模の質感も伴う再現魔法を展開するには相当量の魔石が必要だ。アンジュほどの魔力でも一日一回起動させられれば良い方であり、他の場所では魔石を使って補っているという。

そんな装置を使って何をするかと言えば、魔法を使わない戦闘練習である。

元々魔力の少ないカイルはもちろんだが、アンジュも魔法を使えない状況で戦う術を持っていなければならない。どんな状況で戦う事になるかはわからないが、多くの経験で補う事は出来る。

どうしても年齢という名の経験不足がある以上、こうして様々な状況を少しでも体験出来るこの修練場は、カイル達にとって非常に助かるものだった。


「それじゃあ、始めようか」

「いいよ!」


今回の設定は森、見通しが悪く場所によってはぬかるみが残り足場が多少不安定にもなる。代わりに音がするものが多い為索敵は少しやりやすいが、当然下手な物音ではこちらの位置もばれる。

二人は今、木々の隙間に出来た僅かな広場に並び立っていた。

戦闘練習である為、最初から二人も臨戦態勢である。それは仮想の敵も同じ事、隠しきれぬ殺気が大気をチリリと焦がすようだった。

アンジュが僅かに目を伏せる。風もないのにふわりと髪が揺れたかと思った時には、空気を切り裂く鋭い音が響いた。


「ギャウッ!」


悲鳴と共に転がり出たのは緑の肌に長くとがった耳を持つ小型の魔物、ゴブリンだ。人型ではあるが本能に忠実で従魔魔法を使おうと知的な会話は出来ない。彼らにあるのは食欲と繁殖欲、そして厄介な事に征服欲だ。

弱い者は嬲り、強い者には集団で襲い屈服させる。その為にずる賢い戦略を立てる知能があり、その変異種や上位種も多い事で有名である。

そんなゴブリンの手には短剣が握られ、そこに絡みつくようにアンジュの鞭が巻き付いていた。


「ギギャー!」

「ギャッギャッギャッ」


仲間が捕らえられたからか、あるいは獲物を見つけたからか。次々と現れるゴブリンたちは、それぞれがなにがしかの得物を持っている。

そんな彼らに対し、アンジュは軽く腕を振るった。


「ギギャッ!?」


アンジュの鞭はゴブリンに絡んだままだった。その状態で振るわれれば、当然ゴブリンごと鞭はしなる。

簡易的な鎖付き鉄球のようにゴブリンごと振るった鞭は、他のゴブリン達を巻き込んで激しく一本の樹に叩きつけられた。


「うーん、もうちょっと巻き込めなかったかな」

「三体か。返しを入れたらいけそうだけど無理するより確実性を優先すべきじゃない?」

「それもそうか」


無事なゴブリン達が騒ぐ中、いっそのんびりとした様子で今の一撃を話し合う二人。しかしその目は油断することなく周囲を確認しており、ほどかれた鞭もぴしりと地面を打っている。

そして叩きつけられたゴブリン達も絶命はしていないようで、地に伏せてはいるもののまだ動いていた。


「ギャー!」


一体のゴブリンが武器を振り上げ襲い掛かって来る。目標は仲間をやられた恨みかアンジュのようだ。

それに対してアンジュは鞭を振るう、のではなく近くの樹に向かって鞭を走らせた。

太めの枝に鞭を巻きつけ、強く地面を蹴る。その勢いのままゴブリンの頭を蹴り飛ばし、先程と同じように樹へと叩きつける。

仲間を巻き込まず単身で叩きつけられたゴブリンは、先程のゴブリン達とは違いべコリと頭をへこませて動かなくなっていた。


「ゲギョ!?」

「ギャッギャ!?」


たった一撃で動かなくなった仲間に驚いたのか怯んだゴブリン達の間をアンジュが駆け抜ける。その右手にはいつの間にか、鋭利な短刀が握られている。

鞭は武器として扱いが難しいものだ。素早くしなり叩きつける衝撃と音こそ他の武器に勝るが、直接的に攻撃が出来るものではない。命を奪う武器としては最低に近い性能だ。

それゆえ、アンジュは無理に鞭で倒そうとはしない。鞭はあくまでも補助として使うのだ。

そう、今のように、自分の動きと異なる動きをさせることで意表を突き、足元をすくって転ばせるかのように。

縛る、止める、引きずる、その他諸々を使って身動きを鈍らせ、その隙に接近して止めを刺す。それが魔法を使わない時のアンジュの戦い方だ。


「こんなところかな」


アンジュの通り抜けた後、ゴブリン達はすべて地に伏せ、皆一様に首を掻き切られていた。




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