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スターライト・テイル  作者: 夕月 星夜


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静まり返った部屋の中、セインの尾が動く音だけがパタリと小さく響いてる。


『何やら考え事ですか?』

「ベン・ティーか」


突然聞こえたやわらかな女性の声に驚くそぶりもなく、セインは伏せていた姿勢を正す。

その前にふわりと姿を現したのは、細い銀の髪を纏めた若い女性だった。

ゆったりとした青の長袖ワンピースに白いエプロン、飾り気のない姿は大きな布を被れば農家の女性のいでたちだ。そしてこの家でそんな恰好をしているのは、家付き妖精のベン・ティーのみ。

しかし、一般的に言われているふくよかで優し気な夫人ではなく、ほっそりとした妙齢の女性に見える。この姿を見て正しく種族名を当てられる人はそう多くないだろう。


「その姿を見るのは久しいな……懐かしい、古き友の姿だ」

『ええ、私にとっても懐かしく慕わしい……でも、もうこの姿を覚えているのも一緒に懐かしんでくれるのも、貴方くらいなものでしょう? ですからこうして貴方だけの時には、覚えていられるようにこの姿を模ろうと思ったのです』


そう言って微笑む彼女の言うように、この若い女性の姿は本来のベン・ティーの姿ではない。

そもそも妖精の姿は曖昧で性質によってそれらしい姿をしているだけの事。それゆえ外見を変えるのも、性質に関わらない範囲であれば取り立てて珍しい事ではない。ただ、その姿がかつてこの家で暮らしていた大賢者の奥方と瓜二つだというだけであり、その姿を知る者がさほどいないというだけの事だ。

奥方ではない、そうわかっていようと記憶の中の姿が懐かしく、セインはそれまでのどことなく憂いを帯びていた瞳を和ませる。


「私の記憶もそなたの記憶も変わっていないのだな。それがわかっただけでも嬉しく思う」

『そうですか。私も貴方の憂鬱な気持ちを晴らせたのならば嬉しいです』

「……そう見えているか」

『ええ。ここには私しかおりませんよ、青銀の方。一体何をそれほど悩んでおられるのですか?』


優しい問いかけに滲む心配を正しく読み解き、セインは大きく息を吐き出す。

なにしろ長い、本当に長い付き合いだ。誤魔化そうとしても無意味である事くらいわかっていた。


「ベン・ティーよ。そなた、カイルとアンジュをどう見ている?」

『この屋敷の主に相応しい、まっすぐな善い心の持ち主ですわ。事実をあるがままに受け入れ人の心配を優先してしまう、少し目を離すのが心配になるほどの清らかな心の持ち主でしょう」

「さよう。この屋敷の仕組みを知ったうえで我らの存在を最優先にし、かつての友の遺志を尊重してくれている……正しく、善き子らだ。だからこそ、迷っておるのだ」


そう、セインはずっと悩み、そして迷っていたのだ。ただ、それをベン・ティーとしては不思議に思ったのか、こてんと小首を傾げた。


『どうされたのです? 迷いがあるという事は、もう答えが出ておられるという事でしょう。貴方ほどの方がそれに気がつかないはずがありませんよね?』

「……それが、私自身に関わることでもか?」


問いかけに問いかけを返されてもベン・ティーから非難は出ない。ただ、ヒュッと鋭く息を吸う音が彼女にも予期せぬ事だったと如実に表していた。


『そ、れは、事実ですか、青銀の方』

「事実だ。そして私がそうしたくなくて迷う気持ちも、わかるだろう」

『ええ……ええ。私とて、それをおっしゃるのが貴方でなければ到底許せないでしょう。ですが、大賢者様のおっしゃっていた待ち人が、本当に?』

「そもそも私を目覚めさせた時点で可能性は高かった……だが、適合者である以上、その時が来てしまったという事なのだろう」


聞きたくないと首を振るベン・ティーに、セインもまた俯いてしまう。


『また、あのような戦が起こるのでしょうか』

「起こって欲しくはないと心底思うが、可能性はあるだろうな。だからあやつは私をここに留めた。還すのではなく、眠らせた。その時が来ると知っていたからだ……その事を受け入れた上で私はここに居る」


だが、とセインが口を噤む。瞳には再びの憂いが宿り、けれどそれはベン・ティーも同じ事。

どんよりと重たくなる空気の中、セインは再び息を吐き出した。


「まだ、もう少し時間があると思っていた。少なくとも大人と呼べる歳になるくらいにはなってからの事だと。だが、もうその時なのだろう。光の姫が私の元へ辿り着いた以上、遅かれ早かれあの子たちは真実を知るだろう……私は、決断を迫らなくてはならない」

『青銀の方』


ベン・ティーはふわりとセインを抱き締める。


『私もお供します』

「そなたは契約の範囲外であろう」

『ええ。ですが、私もまた、この家の一員ですわ。というよりも、むしろ心配で帰る事など出来ません。私は家憑き妖精のベン・ティー、貴方とあの子たちの帰る場所を守り切ってみせましょう。ですからどうか、その苦しみを少し分けてくださいませ』


それしか出来ないけれど、と嘆くベン・ティーの腕の中、充分だとセインは呟く。


「……あの末姫が結んだ縁の向かう場所が私の思う場所だとわかったならば、伝えねばなるまい。それまではどうか、そなたの心の内に秘めておいてもらえるか」

『ええ、青銀の方』


夜は更けていく。その中でじっと二人は身を寄せ合い、そう遠くない未来へと思いを馳せる。

出来ればどうかと、叶わぬだろう願いを胸に宿して。




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