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『アンジュさん、それは?』
「魔力を入れる前の魔石だよ……っと」
両手で抱えていた箱の中には大小様々な大きさの半透明の石が入っている。霧がかったようなくすみは石によって異なるが、どれも似たような色だ。
「シルフィンさん、魔法についてどこまで知ってる?」
『ええと、属性によって強さが変わる事と魔法使いには得手不得手があるという事くらいです』
「んじゃ簡単に説明したほうがいいね。まず、魔法は三つの系統に分かれてるの」
『三つ、ですか?』
こくりと頷いたアンジュは近くに置いてあった紙にさらさらと簡単な図を描いていく。
「無属性、属性、種族の三つ。種族魔法は文字通りその種族しか使えない魔法だからいったん置いといて、一般的に無属性と属性の二系統を纏めて魔法と呼んでいるの」
『無属性と、属性ですか。属性は火とか水とかって呼ばれる魔法であっていますか?』
「うん、あってる。この属性魔法にも色々種類があるんだけど、最も有名で力も強いのが六つの属性。水、火、風、土、光、闇って呼ばれているのね」
『はい、聞いた事があります。他の魔法はその六つをさらに細かく分けているのでしたよね』
「んーん。それ、間違いなの」
そう言ってアンジュは別の紙にまた異なる図を描き始めた。
六角形の各頂点に丸を描き、そのひとつから線を伸ばしてまた丸を描いたものだ。
「これが今まで考えられていた、今シルフィンさんが言ってた魔法の形式ね。でもこれだとどうしても説明出来ない魔法の得意不得意もあるの」
『説明出来ない、魔法ですか』
「一番わかりやすいのは治癒魔法。これ、一般的には高位の神官が使うけど、初級の回復なら魔法の心得がある場合は不得意属性関係なく発動するのね。もちろん、人によって回復の範囲や効果は違うんだけど、治癒は光属性って言われていた従来の考え方では説明出来なかったの」
『光属性が使えない方でも回復は使えたという事ですか。確かにちょっと不思議ですね』
「神の恩寵とか言われていたけど、この属性を見直したらちゃんと説明できることが分かったの。それが無属性との混合魔法だって事」
そう言ってアンジュは新しく、先程の丸がついた六角形の脇に大きな丸を描き足した。
「つまりね、魔法は元々無属性で、そこに属性を足す事で威力が上がったり効果が変わるって考え方。お師匠様が見つけた新しい魔法の考え方なの」
『……回復は無属性の魔法だけれど、光属性が加わることで威力が増すから光魔法だと思われていた、であっていますか?』
「そういう事!」
ぱちぱちと拍手をしたアンジュはぽうっと右手の人差し指に淡い光の玉を灯した。
「これ、属性を与えていないただの魔力の塊。シルフィンさんには何色に見える?」
『……うっすらと虹色のような、でも透明なような? 眩しくてなかなかわかりにくいのですが』
「やっぱり見えてるんだ……じゃあね、これをそのまま適当な石に入れまーす」
そう言って左手で適当な石を取り、光の玉を近づける。すうっと沁み込むように光の玉は石に消え、石は先程の半透明から明るい緋色へと滲むように色を変えた。
『色が赤くなりましたね』
「これ、火属性の魔石。でもさっき見ていたように魔法自体は火属性じゃなかったでしょ? これは石の方に火属性があったって事なの。この発見で、誰でも色んな魔石に魔力を籠められるようになったから、魔石を使う魔道具が発展してるんだ」
『綺麗な赤ですね、暖炉の火のようなぬくもりのある色です』
「そう、こういうのはわかりやすいんだけど、例えばこれとこれ」
そう言ってアンジュが取り出した二つの石に、先程と同じように光の玉を近づける。変化した色はどちらも色的には水色だ。淡く美しい青とうっすら緑がかっているがこちらも淡い青。一見しただけでは属性を判別するのは難しいだろうそれを、シルフィーリアの目は全く異なる色に見た。
『……片方は青いですが、もう片方は色々混ざった色なのですね』
「あー、やっぱり」
『え?』
「さっきもちょっと思ったんだけど、多分シルフィンさんって魔力の属性を見極めるのに長けてる。これ、普通だったらどちらも水属性、つまり青色って答えるところだけどシルフィンさんにはどう見えてる?」
『片方は青色ですが、もう片方は青だけじゃなくて黄色や赤、白色も見えています』
「正解ー、これね、そのいろんな色が意味してるのって光属性なんだよ。でもその色々な色って魔力の波みたいなものだから、適性がないと見えないはず」
小首を傾げるシルフィーリアに、アンジュはもう一つとまた別の青い石を見せる。
『これも色々な色が混ざっていますが……黒色も、ある?』
「うん、闇属性の石だからね。でもシルフィンさん、属性で適応あるのって風だけなの。さっき触った時に確認しておいたから間違いない。だから、属性なんでも見極められるのってすっごいんだよ!」
早速カイルに教えよう、とシルフィーリアの手を引いて部屋を飛び出すアンジュの背を、セインは黙って見送る。
何かに悩むようなまなざしは物言いたげにしていたが、結局言葉を発する事はなくただその尾だけがぱたりと小さく揺れていた。
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