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スターライト・テイル  作者: 夕月 星夜


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「さらっと言っていましたが、カイル君のところってお給料いいんですねぇ」

「んー、仕事量色々だし多いし、せめてお給料くらいはよくしないとって。ここは僕たちだけの家じゃなくて、古の大賢者とその奥さんが暮らした大事な思い出もある家だからさ。ちゃんと大事にしてもらわないと困っちゃうから、ちゃんとお給料渡してお仕事してもらおうねってアンジュと決めたんだ」


コーラルの言葉に真面目な顔で答えるカイル。そんな二人を眺めながらクイグはぼんやりと考える。

給料がいいと言っていたが、いくらだったか。他の、自分が自由に道を選べるという事が衝撃的過ぎてあまり気にしていなかった。

そもそも自分でお金を使うという機会がほとんどなく、現物支給ばかりだった。稀に潜入先で怪しまれないよう幾ばくかお金を使う事はあったが、せいぜい小銀貨数枚で、と思ったところで思考を止める。


「……さっき、この家で働くならひと月で小金貨一枚だって言わなかったか」

「うん、言ったね」

「……ここ、リーン王国だよな? 世界でも豊かとされる国々のひとつで、共通硬貨を使うから信頼性も高く、賃金も物価も高いという国だよな?」

「そうだね」

「で、ここはその中でも最も物価が高いだろう王都なんだよな? だからあまり気にしてなかったが、小金貨一枚って普通の賃金じゃないのか?」


クイグの言葉にさっとカイルが顔を背ける。そのまま視線を泳がす姿に嫌な予感を覚えながらコーラルを見れば、帰ってきたのはやわらかな苦笑だった。


「確かにこの王都で小金貨一枚なら、さほど高額な賃金とは言えません。ただし、それは貴族の屋敷に仕えるか冒険者として稼ぐ事が出来る場合です。一般的な職業、例えば商店などで雇われたりする場合でしたら、大銀貨十枚ももらえればいい収入ですね。この王都でお子様が一人いる三人家族でしたら、月に大銀貨十二枚、クイグさんくらいの年齢でしたら大銀貨五枚もあれば湯舟付きの宿に朝食付きでひと月泊って昼夜外食でも充分余裕を持って生活できると思います」

「……小金貨一枚って、大銀貨二十枚であってるか?」

「あってますねぇ。だから、相当お給料がいいですねと」


そのまま二人でカイルを見れば、相変わらず泳がせていた目をちらりと二人に戻し、だってと唇を尖らせた。


「この家広いんだよ? 相当大変だよ? 僕たちでも広いから手が回ってない部屋とかあるんだよ?」

「そりゃ一人なら大変だろうが、二人雇うとかすればいいだろうが」

「優しいお友達に認めてもらえて僕たちも信頼できる人が二人も簡単に見つかるわけないじゃん。それともなに、今回の件が落ち着いたらシルフィンさんもクイグさんも家で働いてくれるとでも?」


無理でしょう、とカイルはますます唇を尖らせた。


「シルフィンさんには帰る場所があるし、クイグさんだってもしここで雇われてもいいなって思ったとしても、まずシルフィンさんを送り届けて安全なの見届けたいだろうし、そしたらそのままシルフィンさんの傍で暮らしたいってなるかもじゃん。二人を縛る権利なんてないんだから、ちゃんと募集かけてお仕事できる人呼びかけた方がいいし、そのためのお給料だよ」

「そもそもの篩に引っかからないのが問題なだけですよね」

「うー! コーラルさんの意地悪ー!」


あははと笑うコーラルさんに怒った様子でじゃれつく姿は年相応に子供らしい。そんな二人を見ているうちに、クイグの唇が緩く綻んだ。


「……っく」

「あー! クイグさんまで笑うの!?」

「い、いや、なんかな。守るよって格好いい言葉を言っていたのに、こんなに子供っぽい一面もあるのかと思ったら」

「失礼な! 僕は正真正銘十二歳の子供ですよ! ただちょっと冒険者としての才能があってそこそこの腕前の大人なら叩きのめせるだけです」

「はははっ」


おおよそ子供らしくない事をさらりと口にしたカイルにとうとう堪えきれなくなって声をあげて笑う。

いつぶりだろうか、こんなに笑ったのは。少しばかり傷が痛むが、笑う方が止められない。

感情のままに笑うのも、存外いいものだ。シルフィーリアに契約を解除された時と同じようななんとも言えない爽快感を覚えてまた笑う。

これまでの自分を悲観する気も否定する気もないが、今の方がずっと生きている感じがする。


「そんな選択肢もあるってちゃんと考えとくよ」

「え、ほんと?」

「だがそんなに給料出しても大丈夫なのか? 冒険者は素材を買い取ってもらえれば確かにかなりの売り上げにはなると聞くが、その分出費も多い職業だろう。ちゃんと定期的な収入源でもないと、雇い続けるのは難しいと思うが」

「あ、大丈夫……それは、うん」


急に遠い目になったカイルにクイグが首を傾げていると、軽いノックの音と共にアンジュがシルフィーリアの手を引いて飛び込むように入って来た。


「カイル、聞いて! お仕事してたらシルフィンさんすっごいの!」

「は? こんな時間に魔石作ってたの?」

「シルフィンさん魔石作ってるの見た事ないって言うから見せようとして、そしたらね、すっごいんだよ!」


その場で飛び跳ねそうなほど楽しい驚きに目を輝かせてアンジュが笑う。


「シルフィンさん、全部の魔力、見分けられるの!」




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