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スターライト・テイル  作者: 夕月 星夜


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「お疲れ様でした」


くすくすと笑いながらコーラルはややぐったりとしているクイグとすっきりした顔のカイルにカップを渡す。


「見てないで止めてくれてもよかっただろ」

「相互理解に会話は大切ですし、貴方がくたびれ過ぎないように適度な時間が来たら止めるつもりでしたよ。それに、直接話した方がカイル君がどんな人かわかりやすかったのでは?」

「……ちっ、喰えない奴だな、あんた」


確かに話した方がわかりやすいのは事実だった為、苦虫を噛み潰したような顔になるクイグ。悔し紛れに悪態をつこうとした時、鼻を甘い香りがくすぐった。

どうせ薬だろうとろくに見もしないで受け取ったが、人肌よりも温かいくらいのカップの中身はほんのり黄色がかった乳白色の液体だ。不思議と香りを嗅いでいると肩の力が抜けてしまいそうになる。

薬というには薬らしくないが、ただの嗜好品とも思えない。


「なんだ、これは」

「カモミールミルク蜂蜜入りです。寝る前に飲むとよく効きますよ」

「なんか、嗅いだことがあるような匂いなんだが……なんだこれ」

「ミーロじゃない? この辺だとリンゴって言ったりするあの赤い果物」

「ああ、なるほどな」


カイルの捕捉に納得し、一口飲んでみる。蜂蜜が入っていると言っていたが本当にごく少量なのだろう。ミルクの持つほんのりとした甘みはあるものの、香りほど甘ったるくはない。ただ普通に飲むミルクよりコクがあり、胃の中がぽうっと温かくなる感覚がある。


「なんだこれ」


ゆっくりとカップを飲み干し、クイグは再び困惑を口にした。

もう一杯欲しいような、充分なような、奇妙な満足感があった。それに、これは薬だと渋々受け入れていたものとは違って、普段なら忌避する香水や花に似た系統の香りがしている。

視覚は誤魔化せる。聴覚は意識して気をつける事が出来る。しかし嗅覚を刺激するものは自分自身で気がつけない事が多い為、最も気をつけなければならないものだ。

それゆえ薬こそ受け入れたものの、こういった香りが強いものの飲み食いはしないようにしていた。

そんな自分があっさりと受け入れ、飲み干し、満足までしている。その事実が受け入れがたく、クイグは傍から見ても明らかなほど狼狽していた。


「お口には合わなかったでしょうか」

「美味しくない?」


二人から心配そうに顔を覗き込まれて、そこまで人に近づかれても警戒していない自分にもはや呆然とする。それほどまでに弱っているのだろうか、と何とか理由を見つけようとしていると、カイルが何かに気づいたような顔になった。


「あ、もしかして。仕事関係でいつもと違う自分に困惑してたりする?」

「っ!?」

「えーと、ごめんね。それ多分コーラルさんの加護のせいだから」


弾かれるように顔を上げたクイグと、こてんと可愛らしく首を傾げるコーラルの二人に見つめられ、カイルは苦笑して頬を掻いた。


「まずコーラルさんの加護の説明ね。コーラルさんは薬師って職業で冒険者登録もしてるし薬師にもなっているんだけど、その他に植物の神様と医療の神様の加護を持ってるんだ。で、その結果として自分が治療行為を行う対象に迅速な手当てをする為、警戒心などを薄めさせるという効果が発動してるんだ。それはコーラルさんも自覚あるよね?」

「はい。ですが、それがこの方にどうしてここまで困惑させる結果になるのかがいまいち……」

「んー、そうだねぇ。クイグさん、話してもいい?」


一応と声をかけるカイルにクイグはそれまで見せなかった警戒心の強いまなざしを向ける。


「いつから」

「出会う前から。僕じゃなく、セインが気付いて教えてくれた。で、実際に会って確信した」

「わかったうえで、家に連れてきたと」

「だってコーラルさんの患者さんだよ? そりゃ連れてくるでしょ」


それが当然、とクイグの目を見つめ返すカイルの目は、深くも澄んだ青に染まっている。

嘘偽りの欠片も見つけられず、だからこそクイグは信じられない思いで警戒を強めた。


「薬師はいい。知らないならあの少女もだ。だが、知っていて何故そこまで落ち着いていられる? あんたは本当に子供なのか?」

「子供らしくないとはよく言われる」


そう言ってカイルはわずかに目を伏せ、ゆるりと口の端を持ち上げた。


「僕とセイン以外、だーれも貴方を警戒しないんだよ。助けられたシルフィンさんも、絶対に僕らに迷惑がかかる人を患者にはしないコーラルさんも、人一倍危険に敏感なアンジュも、この屋敷を守り続けて未だに害意あるものをはねのけ続けてる優しいお友達も、みんなだ。おまけにセインも知っているのに警戒を解いてるし、僕の目から見ても悪い人じゃないなーって思うし?」

「……は? 俺がなんなのか知ってて、本気で言ってるのか!?」

「うん」


あっさりと肯定されて何度か口を開け閉めするクイグの前で、コーラルとカイルはだってねぇと頷きあう。それをみて、クイグはどっと疲れた様子で天を仰ぐ。


「そんなあっさり、暗殺者を受け入れんなよ……」




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