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スターライト・テイル  作者: 夕月 星夜


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「不服そうだねー」


コーラルの部屋、簡易寝台になるソファで寝転がりながらカイルが笑う。視線の先にはベッドに戻って上半身を起こしたクイグが言葉通りどこか不機嫌そうな顔になっていた。


「そんなに子供が冒険者なのがおかしい?」

「エリートを倒せる子供がおかしいだろ」

「こうみえて冒険者歴もう二年過ぎてるよ? 普通じゃない?」

「は!? 二年も前に冒険者登録したのか!?」

「うん。二桁になるまでは駄目だって止められていたから、十歳になってすぐに試験受けてちゃんと合格してる」


ほら、とカイルがクイグに見せたのは左腕に嵌った腕輪だ。冒険者として登録した際に発行される身分証明も兼ねた魔法具であり、人によって形状は異なるが共通して組合の印と魔石をはめ込んだミスリル製となっている。

そしてカイルの腕輪にも確かに魔石と組合の印が刻まれており、クイグも信じざるを得ないでいた。

しかし、信じる事と信用するのはまた別だ、と内心で思う。

どんなに言葉を尽くされようと、どれほど高名な師の下にいようと、実際に自分で見てみなければ信用など出来ない。クイグの目には未だ頑是ない子供にしか見えていないのだ。

いくら自分の家だからと言って見知らぬ人間を二人も連れ込み、あまつさえ同じ部屋で寝ようとする神経が、その無防備さがどうしてもただの世間知らずな子供としか思えない。

そう、その時までは思っていたのだ。


「ねえ、クイグさん。僕からいくつか質問というか確認なんだけど」


カイルがいつも通りに口を開く。少しのんびりとした声は何の気負いもしていない。

なのに、空気が変わった。無意識に身構えた体に驚きながらカイルを見れば、静かなまなざしがクイグを捕らえていた。


「仕事以外に人を殺した事、ある?」


確かに質問の形式だ。だが、確認とも言ったように、それは明らかな確信を持った声だった。

クイグが人を殺したのは当然だと、それが仕事だろうと知られている。それからはもう、咄嗟の事だった。

考えるよりも先に体が動く。愛用の武器はなく、本調子ではない体で、それでも子供一人に後れを取るような鍛錬はしていない。そのはずだったのに。


「……別に怒ってないし、それがどうのこうのって話じゃないから、落ち着いて」


気づいた時には自分の体が床に落ち、腕が後ろ手に捻り上げられていた。押さえつける力は全く強くないのに、関節を決められているのか全く動けない。痛みを覚えるほどではない腕は、けれど少しでも暴れれば容赦なく引き上げられて激痛を与える事だろう。


「な、んだ、これ」

「簡単な護身術でしょ、こんなもの」


やれやれと言ったようにさっきと変わらぬ声が聞こえる。そう、変わっていないのだ。

先程までソファに転がっていた非常に無防備な子供の時と、こうして押さえつけている時がいかにも自然であるかのように変わらない。その事にゾッとする。

得体のしれない魔物よりもよほど不気味で異常なのに、同室のコーラルは驚く様子もなくただ黙ってそれを受け入れている。これが、当然なのだというように。


「お前は、いったいなんなんだ」

「僕はただの冒険者のカイル。魔力は少ないけど運よく精霊獣と契約を交わし、たまたま剣の才能があった子供……で、こういった事にも慣れちゃってる」


仕方がなかったんだよ、と少しばかり疲れたような息を吐いてカイルは口の端を少し上げた。


「僕の相棒のアンジュは可愛いでしょ?」

「は?」

「え、僕のひいき目抜きにしても可愛いと思うんだけど」

「……まあ、攫ったら高く売れそうな外見ではあるな」

「ああ、うん。その認識であってるあってる」


クイグを解放して床に座らせたかと思うと、カイルはやや俯きがちにがっしりとその両肩を掴んだ。


「で、ここにいるコーラルさんもそうだよね? そういう外見だよね?」

「まぁ、そうだな」

「それでさ、僕の母親が精霊の血が遠くに混ざってるらしくて先祖返りした外見なんだ。一緒に暮らすジュルフェ父さんもまあ本当に整った外見の持ち主で。で、僕もそこそこ売れそうらしいね?」

「あ、ああ」


確かにカイルも子供ながらかなり整った容姿の持ち主だ。その母親が先祖返りで精霊めいた美貌の持ち主、白の導き手も麗しとか白皙に緑翆のまなざし等と唄にされているのを聞いたことがあったのだから顔立ちが整っているのだろう事もわかる。

わかったから、理解してしまった。


「今までに、襲われた事があるのか」

「数えきれないくらいに、ね。だから冒険者になって顔を売ってるんだ、この方がむしろ安全だからさ……アンジュはまだちょっと抜けちゃってたりするけど最悪自分で逃げたり戦えるよ? ジュルフェ父さんだって心配する必要はない。でも、母さんが本当に、ほんっとうに優しすぎる人だから男が自分に気があるんじゃないかってすぐ勘違いしちゃってさ!」

「お、おう?」


それからコーラルが止めに入るまでの間、悪意なくただし下心満載の男性陣から母親を守るのがいかに大変だったか、ついでのように狙われたアンジュが暴走しないよう先回りして処理していたのかを聞かされ続けたクイグは、子供というだけで思い込むのはよくないのだなと、それだけを嫌というほど思い知らされたのだった。




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