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スターライト・テイル  作者: 夕月 星夜


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誰かの気配がする。瞼にはやわらかな光を感じ、どこか懐かしい薬草の香りが肺を満たす。

それは初夏の風のように清々しいもので、吸い込むと気分が晴れ晴れとするようだ。

耳に届くのは紙をめくったのだろう乾いた擦れと揺れる空気の重なった静かな音だけ。

緩やかな微睡から覚醒するのを惜しいと思うほどに穏やかな時間がそこには流れていた。


「目が、覚めましたか?」


そっと、まだ微睡の中ならば目覚めずに再び揺蕩えるよう抑えられた和やかな声に、ゆっくりと目を開く。

不思議な気分だった。物心ついてからこれまで、こんなにも穏やかに他者の気配に警戒する事なく無防備に眠れた事はない。常に気を張る生活を続けているのが当たり前の日常で、いつだって意識のどこかは覚醒していた。

それが普通の反応だと思っていたのに、何故だろう。目覚めはとても穏やかでゆっくりとしていた。人の気配を感じても、それを当然のように許容して警戒どころか確認しようとさえしないでいる自分が信じられない反面、とても心地よいと思う。


「どれくらい……寝ていた?」

「そうですね、そろそろ夕食といったところですから、三時間ほどでしょうか。少し失礼しますね」


眠りを妨げぬよう抑えられていたランプの光が強められ、優しい色合いの緑が揺れた。

微かな衣擦れの音をさせ、近寄ってくるのは自分の命を救った薬師の男だ。自分の記憶力には自信があったが、この青年——コーラルに関しては毎回最初にそう認識する必要がある。

様々な階級、国、種族を見たつもりだったが、この青年はなんというか、気配がどちらでもないのだ。

おそらく彼自身が自分の性別に対して認識をしていないせいだろうか、生まれ持っての外見と相まって性別不詳にもほどがある。

暗殺者という職業柄いかに上手く変装した人間であれ一度見知っていれば見破る自信があっただけに、この確認は少しばかり悔しさを覚えるものだ。


「うん、脈も正常、熱も下がりましたね。これなら明日にはベッドから出て少し動いても大丈夫でしょう」

「本当か?」

「ええ。貴方自身の治癒力も高かったようですし、私の薬とも相性が良かったようです。なによりこの屋敷は怪我人や病人に活力を与える魔法がかかっているそうですし、それも相まって早い回復に繋がったのかもしれませんね」

「活力を与える、魔法?」


聞いたことのない魔法だ、と口にすればコーラルもそうでしょうねと同意する。


「私も正確な魔法の効能は知りませんが、この屋敷は元々古の大賢者様の住まいでした。そしてその奥方様は光の民の末裔であり、この国の建国の際に起こった戦争で左足と右腕に治らぬ怪我を負ってしまったそうです。その怪我の痛みを少しでも緩和する為に、この屋敷のあちこちに治癒力を高める魔法をかけてあるのだとか」

「……古の大賢者ねぇ……」


お伽噺、あるいは現在冒険者ギルドで有名な魔法使いならばわかるが、古の大賢者といわれてもピンと来ない。

首を捻っていると、この国の話ですからね、と微笑みが返って来た。


「貴方も知っているような有名な人だと、そうですね。白の導き手様と黒の紡ぎ手様はご存知でしょうか」

「それはもちろん。現在最も有名な魔法使いの筆頭とも言える、優れた魔法使い達だ。結界魔法を得意とし魔法史に残る新たな魔法を確立させたジュルフェ・ルシリアと、攻防どちらにも優れた複雑な魔法展開をこなせるエリオス・リオールの二人だろう?」

「はい。その彼らの共通の師が慈愛の大魔女マノラ様その人です。彼女の事は?」

「植物に愛された魔法使いで、彼女によって新しいポーションや薬が産まれたって事は知ってるが」

「大魔女マノラ様は、この家の持ち主であった古の大賢者様とその奥方様の直系の子孫です。大賢者様からは魔力を、奥方様からは精霊と共に歩む術を、数代経ていながら正しく受け継いだ御方だったそうです」


その意味を理解するのには少し時間がかかったが、何度か噛み砕いてみた結果結論付ける。


「現在の魔法使い達の、祖と呼べる魔法使いって事か」

「ええ、アンジュさん曰く古の大賢者様がいなければこれほど魔法が発展する事はなかっただろうと。この国で有名なだけでなく、冒険者ギルドの偉人の中にも列席されているそうですよ」


だから記憶に引っかからないのか、と納得する。

今生きている相手ならば必要な知識として率先して覚えるが、何代も前の偉人で自分の変装する事のない魔法使いまでは把握出来ていなかった。

しかし、こうして恩恵を受けた身としては、覚えておくに越したことはない。


「さ、少し長話をしてしまいましたね。夕食は食べられそうですか?」

「ああ、食欲はある」

「では、そろそろ呼ばれてもおかしくない時間ですし、薬の準備をしておきましょうか」


濃い緑の草をごりごりと磨り潰しながら微笑むコーラルに頷き、軽く目を閉じる。

なんにせよ、傷が早く治るに越した事はない。きっと彼女は、シルフィーリアを諦めないだろう。

どのみち夕食まで時間があるのだ。避けられないだろう戦いを思いながら、どう戦うかを頭の中で試行錯誤してみる事にした。




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