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スターライト・テイル  作者: 夕月 星夜


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15

アンジュの部屋はカイルの部屋の隣だが、扉は廊下の一番奥にある。

やわらかな輝きを帯びた銀色の取っ手の扉は、浄化の力を持つとされた白樺で温かみのある白い色に仕上げられており、星を模した戸叩きがついていた。

普段はめったに鳴らないそれが澄んだ音を立てるのを聞き、アンジュは読んでいた本から顔を上げた。

扉の前にいるのがシルフィーリアとカイルなのは、ぼんやりと魔力を感じてなんとなくわかる。


「はぁい?」


どうかしたのか、と思いながら返事をすると、ゆっくり開いた扉の向こうから両手にお盆を持ったシルフィーリアが現れた。

お盆の上にはポットにカップ、何かしかのお菓子……そこまで確認して、アンジュは慌てて立ち上がった。


「……ちょっと、カイル! シルフィンさんは怪我してるんだから、重たいもの持たせたらだめよ!」

「あっはっは」


焦って駆け寄るアンジュに対し、カイルは楽し気に笑って答えようとしない。

シルフィーリアもまた、悪戯が成功した子供のように微笑んでいた。


『私が持ってきたかったので、どうぞ怒らないであげてください。それに、カイルさんは私を案内するだけでなく扉も開けてくださいましたよ』

「でも、重たいでしょう?」

『大丈夫です……アンジュさんがよろしければ、私とお茶をしていただけませんか?』


言われてお盆に目を向ければ、確かにカップが二つある。ここにいるのは三人なのに、とアンジュが小首を傾げると、それに気づいたのかカイルが笑顔のまま口を開いた。


「僕はちょっとギルドに顔を出してくるから参加できないけど、せっかくだから女の子同士でお喋りしたら? シルフィンさんに関しては激しい運動じゃなければいいよってコーラルさんからも許可出てるみたいだし、一人で部屋にいるのも少し不安なんじゃないかな」

「私はいいけど……大丈夫? 具合悪かったり疲れたりしたらちゃんと言ってね?」

『はい、その時はちゃんと言いますね』


心配そうに見上げてくるアンジュに、シルフィーリアの笑みはますます深くなる。

その朗らかなで嬉しそうな微笑みに、本当に無理はしていないのだとわかったアンジュもまた表情を緩めていた。


「じゃあ、お盆はそこのテーブルに置いてもらっていい? 置いたら座って待ってて、本を片してくるから」

『わかりました』


アンジュが示したのは一人で使うにはやや大きめの丸いテーブルだった。扉と同じく白樺で作られただろうやわらかな白色は、丁寧に削られた後上から樹脂を塗ってあるのだろう、つやつやと輝いている。

同じ加工で作られたのだろう椅子が二脚、白と淡い桃色のクッションを添えておいてあるのが実に可愛らしいひと揃えだ。

他にもこんな可愛らしいものがあるのだろうか。言われた通りにお盆を置くと、腰掛けたシルフィーリアは好奇心のままに部屋の中をぐるりと見回した。

まずは壁。扉よりは色が濃いものの同じく白樺だろう木材で統一された壁は、ぐるりと円形に部屋を模っている。窓は扉から遠くに二か所、大き目で窓敷居が座れるほどの広々としたものと、細長く光を取り込むために作られただろうものと、それぞれに紗で織られたらしい生地のカーテンが揺れている。

扉近くの壁には本棚が部屋の壁半分を占めるのではないかと思われるほど置いてあるが、白で統一してあるからか圧迫感は少なかった。

左右の窓に挟まれる形でおかれたベッドは天蓋付きのもので、寝る時には帳を下ろすのだろう。その生地も分厚いもの一枚ではなく、薄いものが数枚重なり合っているようだ。

その他には繊細な掘り込みがされた衣装棚や小さな棚、そしてあちこちの壁や棚の上に置かれた小さめの明かりが目に入る。すべてを灯せばぼんやりと、幻想的な雰囲気になりそうだ。飾られた花や空いた壁を彩る垂れ幕など、どこを見ても可愛らしく整っている。

そこまで見てからふと、どれもまだ灯りが燈っていない事に気がつく。まだ夕暮れ前とはいえ、何故こんなにも明るいのか。

窓からの光だけでは足りないだろう、と何の気なしに上を見上げ、シルフィーリアは思わず息を飲んだ。


『天井が……空になっているのですか?』

「ううん、ちゃんと天井だよ。この部屋は大賢者様が月や星の力を借りる魔法を使う為に作った部屋だから、ちゃんと見えるように天井が透明度の高い魔法水晶で出来てるの」


部屋にあわせて丸く半円状になった天井は、繫ぎ目もよくわからないほど透明度が高い。そこから差し込む日の光がどういう仕組みか目や物を焼くほどに強くはなく、けれど部屋を充分に明るく照らしていたのだ。


「はじめて見るとびっくりするでしょ? 私も、だからこの部屋が気に入って自分の部屋にしたの」


にこにこと笑いながらアンジュも椅子に座る。そのままポットの蓋を取ると、意識する様子もなく中へと指を向けた。


「おいしくなぁれ」


アンジュがそう言った瞬間、ポットから湯気が立ち上る。それを見たシルフィーリアの目が、またしても真ん丸に見開かれていた。




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