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スターライト・テイル  作者: 夕月 星夜


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「私は赤子の時に小舟に乗せられ、運よく森近くの海岸に辿り着いたのだそうです。養父母に拾っていただいたことで今こうして生きている……だから、あなた方を見つけた時に、今度は私が助けに回る番なのだと思いました。同じ海に、救われた者として」


そうしてコーラルは見る人が皆安心するようなやわらかい微笑みを浮かべる。


「あなたがどんな思いでシルフィーリアさんを助けたのかはわかりませんが、私が見つけた時のあなたはしっかりとこの方を腕に抱いて守ろうとしていました。意識を失っていたにもかかわらずです……私がお二人の助けになろうと決めるのには充分でしょう」


コーラルの言葉にシルフィーリアも大きく頷いている。そんな二人を交互に見比べ、青年は小さく嘲笑う。


「ほんっとに、あんたら甘ったるい考え方してんな……どのみち、この状況じゃ満足に動けない、か。いいだろう」

「話す気になった?」

「このどうしようもなくお人好しな治療師とお姫様に免じてな。だが、お前らにどうにかできるとも思ってない」

「うん、それでいいよ」


侮蔑めいた言葉にも、カイルはただ小さく微笑むだけで否定はしない。動じる様子もないのを見て取ると、青年は皮肉めいた笑みを消した。


「……ふん。まあ、いい。俺はクイグと呼ばれている。お嬢の命令でこのお姫様をさらった一人だ」

「お嬢?」

「俺たちの雇い主といえばいいか? 魅了系の魔法を得意としていること以外は、何かを欲しがってこのお姫様をさらったってことぐらいしか知らないがな」

「俺たちってことは、仲間がいるんだね」


冷静なカイルの言葉に、ああ、とクイグは頷く。


「今回は他にチリィとオフトがいるな。お嬢はファーイの血を引くとかで、一族の宿命とかなんとかでお姫様の力がいる……だったか? で、この島に向かっていた」

「詳しくは知らないってことか」

「ああ。俺たちはお嬢の手足であり望みを叶える以外生きる術を持たない、そう契約させられている……はずだったんだがな」


そう言ってクイグはじっとシルフィーリアを見つめた。


「なんでかは知らんが、お姫様に触れられたら契約が破棄されたんだ。自由に動いても制限されないわ、好きなこと話せるわでな。それが存外、心地いい。だから、お姫様の手足を折るってチリィが言い出した時、逃がそうと思った」

「契約の破棄? 触れただけで?」

「ああ。俺の場合は右手の甲に印があったが、今は何にもないだろ?」


驚きの声をあげたアンジュは見せられた手の甲をしげしげと見つめる。


「確かになんの痕跡もないね。セイン、ファーイってことはやっぱりそのお嬢?って人もシルフィンさんと同じ一族ってことなのかな?」

「ふむ、おそらくな。アンジュ、ファーイという言葉に聞き覚えがあるのか?」

「セインが言った古い光の民はピンとこなかったけど、ファーイって呼び方があるのなら古文書で読んだことがある。慈愛の女神に祝福を受け、癒しの力に長けた精霊の友と呼ばれる人々。その中でも女神の愛し子が王族になり平和な国を築いたとされるが、精霊の力が弱まるにつれ人知れず姿を消した。で、ファーイはその一族の巫女とか預言者とかって立ち位置だったはず」


あっているか、と問いかけるアンジュにセインは大きく頷く。


「伝わっている情報に間違いはないようだ。しかし、意図して隠された部分がある。王族の力は、厳密では癒しではないのだ」

「うーん? じゃあ、それが光の民ってセインが呼ぶ理由だったりする?」

「そうなるだろうな。そもそも光の民の始祖たる乙女は人ではなく半神だ。慈愛の女神の娘が一女神と精霊使いの青年との間に授かった一粒種。精霊と心を交わし大地の声を聴き、その力は悪しきものを祓う――かの一族の本来持つ力は、浄化だ」


そういう意味ではファーイも似たようなものだが、とセインは言葉を濁した。


「王族とファーイは違うんだね?」

「ファーイは、一種の器でもある。癒しと違い、浄化は完全を求められるものだ。それゆえ浄化に時間がかかる場合、穢れを進行させないよう食い止める必要がある。それがファーイ……浄化の力を持たぬが強大な魔力で穢れを抑え込んだとある少女の名であり役職だ」


だからだろう、とセインはクイグの右手を見る。


「契約の呪いをかけるのはファーイが優れていようと、もっとも浄化に長けた王族の血をひくシルフィーリア嬢の力が勝る。違う系譜ならともかく同じ一族ならば、さもあらん」

「なるほどな。じゃあ俺はお姫様によって契約を解除されたって……待て、呪い? 契約の魔法は呪いではないはずだろう?」

「そうだね、確かに契約魔法は普通に使われるありふれた魔法だ。セイン、なんで呪いっていうの?」


クイグの言葉に頷くカイル。その疑問に答えたのはセインではなく、未だ右手を見つめていたアンジュだった。


「浄化で痕跡も残さず消える魔法なんて、呪いしかないもの。シルフィンさんの喉といい、腕は確か見たいだし……でもよかったね。ここまで私が視えないなら完全に影響は残ってないって言ってあげられる」

「元来魂の光が強かったのだろう。魂まで縛られていれば、触れるだけの浄化は流石の末姫とて無理だったろうな」


良かったな、と言われたクイグは複雑そうな顔で自分の手の甲を見つめるのだった。




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