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スターライト・テイル  作者: 夕月 星夜


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10

昨日は更新忘れててごめんなさーい!

正直なところ、食欲はなかった。回復魔法も薬も効きにくい身としては傷を癒す為には食べなければ駄目だとわかっていたが、水すら飲みたいとは思えないでいた。

そんな青年の手が届くところに置かれたベッド上用の簡易机の上には、器に注がれたスープがホカホカと湯気を立てている。

長い事煮込まれたのだろう飴色になったスープの中には小さくトロトロになった野菜と焼いたパンが沈み、その上から熱で蕩けるようにとごく薄く削られたチーズがくどくなり過ぎない程度にのせられていた。


「食欲ないかもしれないけど、体に優しいスープだから一口だけでも食べてみて」

「……ああ」


鼻腔をくすぐるどこか懐かしく素朴な香りに、自然と手が伸びていた。

まだ熱いスープを匙にすくい、少し冷ましてから口に運ぶ。

最初に感じたのは驚くほどの甘さだった。ついでやって来る野菜の旨味、ほんのりと感じる程度に抑えられた塩気。やわらかくなったパンの持つ小麦の甘味、チーズの部分を食べればコクと塩気が強く、飽きることなく食が進む。確かに今、体が求めているのはこのスープだった。

そうして気がつけば皿は空になり、お腹はここ最近にないほど満ち足りている。


「旨かった」

「よかった。お茶も飲めそう? ミルク入れていい?」

「ああ」


お茶もまた、飲んだことがないものだった。少しスッとした香りがするほんの少し黄色味がかったお茶に温められたミルクを注いだそれは、ミルクの濃厚さを感じつつも後味はさっぱりとしている。


「これも旨い」

「傷の治りをやや早めてくれる薬草茶です。飲めてよかったです」


にこやかにコーラルがそう言えば、青年は頷きまた一口お茶を口にした。


『アンジュさん、このスープはどなたがお作りになりましたの? ぜひともレシピを教えていただきたいのですが』

「ん? ええと……セインー」

「聞いてもいいが、何故知りたいのか教えてもらえると説得もしやすくなるな」


セインの言葉にシルフィーリアは少々恥ずかしそうな顔で空になった器を見る。


『その……亡くなった祖母と、同じ味がしておりまして……とても懐かしく嬉しいのです。祖母が亡くなった時、私はまだ幼かったのでレシピは覚えておりませんでしたし、自分で作ってみてもなにか味が違うなと思っておりましたので』

「ふむ。懐かしいと思うのは、ある意味当然かもしれんな。なにせそのスープは、ティフィアナの好物だったはずだ。光の民に伝わっていたスープだとかでな」

「ティフィアナって、大賢者の奥さんだよね? この屋敷で暮らしてた……だからか、それで」


話を聞いていたカイルが納得したように頷くと、アンジュは小首を傾げる。


「ねえ、ずっと気になっていたのだけれど、光の民ってなんのお話? シルフィンさんが光の民なの?」

「ああ、アンジュはちゃんと聞いてなかったんだっけ。セイン曰く、シルフィンさんは光の民の末裔なんだってさ」

「そうなのね、じゃあもしかしたら会いに来てもらえるかも?」

「一人の時なら、もしかすればだがな。彼女にとっても、懐かしかろう」

『あの、それはいったいどういう事なのでしょうか?』


疑問を投げかけたシルフィーリアに、ああ、とカイルたちが笑う。


「この家にはね、僕たち三人以外にもう一人、屋敷を守ってくれている『優しいお友達』がいるんだよ。屋敷の前の主である大賢者とその奥方に仕えている素敵な方がね」

「私も一度しかお会いしたことはありませんが、とても素敵なお方ですよね。それにこの広いお屋敷をいつも居心地よく整えてくださって、本当に優れた家の守り手様だと思います」


コーラルも褒める『優しいお友達』、それは一般に家憑き妖精と呼ばれる善良な妖精だ。

家憑き妖精自体は種族がいくつかあるが、この屋敷にいるのはベン・ティーと呼ばれる簡素なドレスとエプロンを身に着け少しばかり恰幅のよい、優し気でえくぼを浮かべる微笑みがチャーミングなご婦人である。

元は大賢者との契約で屋敷の維持をこなし、新たな主が決まったら役目を終えて妖精の国へと戻るはずだったのだが、やってきたのがまだ子供だったので未だ留まってくれている。

元々ベン・ティーは親切で世話好き、そしてとくに子供の世話をするのが好きだそう。そんな彼女の前に冒険者という危険と隣り合わせな子供が二人も現れたのだ。留まってしまうのも無理はない話だった。


「シルフィンさんが認められれば、一回くらいは姿見せてくれると思います。傷がいえるまではここで暮らす事になりますしね。レシピ教えていただけるといいですね」


そう言いながらコーラルは青年が飲んでいるのと同じお茶をシルフィーリアへと差し出した。


「でもひとまずは貴女もまだ怪我をしていますので、治すのを優先しましょうね」

『はい』


ミルクたっぷりの薬草茶を大人しく飲みだすシルフィーリア。血行を良くし傷の治りを速める薬草を入れたお茶は、薬効を抜きにしても常飲できるくらいに味がいい。

なので、他の人達も同じようにミルクたっぷりの薬草茶を飲んでいる中、まず口を開いたのはカイルだった。




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