序章
ずっと書きたかったファンタジーです。
この作品を作るにあたり、多くの方々にお世話になっております。
また、作品中にモデルがいるキャラクターが出る場合がございますが、ご本人に許可をいただいてモデルにさせていただいておりますのでご了承ください。
青い、雲一つない空。
爽やかな風が心地よい午後、肥沃な島国リーンの王都ウィールはいつも通り賑やかだ。
名前の通り車輪のように区分けされた八つの通りが特徴的な円形の町並み。その東側、大きな市場と安価な宿が多いことから冒険者の多く集う道の外れに、一軒の屋敷がある。
周囲と比べれば大きいが、西の貴族街では珍しくもない小さめの屋敷だ。裕福な商人や、子爵などが町で暮らすのに手ごろな大きさと言っていいだろう。
屋敷の倍はある広い庭と高い塀でぐるりと囲まれたその屋敷は、かつて開かずの家と呼ばれていた。
王家所有、冒険者ギルド預かりの家の鍵は、申請すれば誰であっても受け取ることができた。しかし、最初の家主以降誰一人としてその屋敷に住むことが出来た者はいない。
魔法がかかっているのか、何かいるのか。元は高名な魔法使いの住居であったその屋敷に足を踏み入れたその誰もが、詳しい話をしないで諦めていた。
謎が謎を呼ぶその屋敷に、新しい主がやってきたのは二年前。
若い二人の冒険者たちが、その家に認められたのだ。
一人はカイル・セフィード。艶やかな黒髪に海のような青い瞳の少年で、使う武器は剣。流れの剣聖として名高いクラウス・アルベルトの弟子であり、冒険者ギルドにその紹介状を持ち込んだ時にはちょっとした騒ぎになった。
もう一人はアンジュ・ルシリア。濃い金の波打つ髪に珍しい淡い紫の瞳を持った魔法使い。白き賢者と呼ばれるジュルフェ・ルシリアの義娘であり愛弟子と魔法使いの間では有名な少女だ。彼女もまた冒険者ギルドをどよめかせていた。
彼らの紹介状ももちろんだが、何よりも人々を驚かせたのは二人がまだ十歳の子供だったことだ。
冒険者をはじめる年齢は確かに低い傾向にあるが、十歳は流石にあまり前例がない。それでいて実力はあると紹介状を持っているのだ。注目が集まるのも当然だった。
そんな二人が開かずの家に認められたと情報が出回ると当然ながら大騒ぎになったのだが、当の二人はさして気にした様子もなく、街中のちょっとしたお使いじみた依頼から簡単な討伐など、初心者冒険者のやるべき依頼を地道にコツコツとこなしていた。
これは、そんな二人と彼らに関わる人々の物語である。
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