クリスマスが好きになる
「良かった。クリスマスの事が嫌いじゃなくて」
マサムネは安堵した表情だった。
「それはどういう意味でしょうか」
「ボクの仕事はね。世界中の人がクリスマスを好きになってくれるように色々企画する事なんだよ」
「えーっと。あんなに無礼でバカ騒ぎして自分勝手な人たちですけど」
「そうかもね。でもね。これはみんなが幸せを求めているって事でもあるんだよ。本来の意味から少し外れちゃっても方向性は同じだと思うんだ。クリスマスを通じて人々が幸せになる事。それがボクの目指す方向性なんだ」
「マサムネ……さん。貴方は本当はイエス様では?」
「ははは。だから違うって。こういう外見だからよく間違えられるんだけどね。そうだねえ。世界を学校に例えると君は生徒でボクは担任教師。ボクは偉い訳じゃなくて少し年上ってだけ。イエス様は文部大臣なんだよ。一生徒の前に文部大臣は出てこないでしょ」
なるほど。そういう話なのか。
しかし、それはマサムネの立場を説明しているだけだ。俺の置かれている現状とは繋がらない。
「じゃあなぜ俺はここにいるんですか? アレは不幸な事故だったとしても、俺がここにいる意味を教えて欲しいです」
「理由はただ一つ。君にね。思い出して欲しかったんだ。本当はクリスマスが大好きだったって事をね」
「思い出してどうするんですか? もう死んじゃってるわけだし意味ないと思いますけど」
マサムネはニコニコしながら俺の手を握った。
「君はまだ死んではいない」
「肉体は死んでも魂は不滅とか言わないでください」
「ははは。そんな話じゃないよ」
「じゃあどういう事なんですか? トラックにはねられて死なないなんて信じられない」
「それはボクのちょっとしたイタズラなんだ」
「イタズラって。マサムネさんそりゃ酷いよ」
「ふふふ。まあまあ怒らないで。そろそろ戻ってくださいな」
戻る?
何の事だ?
マサムネがパチンと指を鳴らした瞬間俺は眩い光に包まれた。
そして、奈落の底へ落ちるような、ものすごい急降下を味わったのだ。