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おてんば魔女は最強魔女!  作者: 魔女猫ユウカ
第一章:秘密の姉妹
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7.コッケーはどこ?

 後ろの方向には全力疾走で三匹のコッケーを同時に追いかけるカナエがいた。サユリもリューウと同じスピードで走っては、挟み撃ちをしようとしている。

 百人が一斉に白い物体を求めて走る。

 開始後一分たったが、未だコッケーを捕まえたという情報はモニターになかった。

「うーんと、どうしようか。嵐になりそうだけど、森へ行く?」

 先ほどとは打って変わって重苦しい雲が竜のごとく天を覆う。

 そもそも、鈍足なあたしのことだ、簡単には捕まえられそうにもない。人がたくさんいるここで、あたしも走ったら迷惑となるだろう。奇跡的にゲットしたとしても反射神経が悪いので、誰かに奪われる可能性だって充分大有りだ。

 それなら、森の中のほうが安全・・・・・・。嵐になって被害を受けるのはあたしだけど、そこは精神力で乗り越えれば大丈夫!だって、肝心のコッケーは死なないんだもんね。

 真剣に追いかけっこをしている皆を尻目に、あたしは全力で森へ向かった。五分程度で到着できるだろう。森へ逃げこんだコッケーもいたし。

 だが、現実はそう上手くいかないものである。


 目の前に広がる巨木群は何度見ても恐ろしい。が、もっと恐ろしいものもある。

 森へつく寸前のことだ。

 廃墟となった建物はなんと、森の中まで続いていた。さすがにこちらの方まで近づく者はいないので、のほほんと歩いていたのが間違いだったのかもしれない。

 右手の方向にある建物は、たぶん食べ物屋さんだったんだろう。ほのかにせんべいの甘い香りがした。すごく消えかけのにおいなので、歩いていなければ気づくこともなかったのに。

 そんな時間はないのは重々承知の上で、建物へ侵入してみる。

 一階建ての簡素な山小屋風の建物は、木製の椅子や机が散乱していた。一歩進むごとに(ほこり)が舞いあがり、(ちり)が鼻孔をくすぐる。においは部屋の奥から漂ってきていた。誰かいるのかもしれない。

 抜き足差し足で歩く。後ろからルリラも四本の足を器用に静かにおろしながら障害物を避けてついてきた。

 部屋の中間地点まで進んだ所で、あることに気づいた。床が埋もれるほど埃が積もっているのだけど、小さなかわいい足跡が四つついているのだ。

 もしや、コッケーの足跡?四つってことは二匹いるのかもしれない。

 奥まで到着した。扉があることから、まだこの建物には奥があるんだと思う。物怖じせず少し開いていた扉をそっと開ける。

 小ぢんまりとした部屋。先ほどとは違い、物が一つもなく埃もない。外の明るい光がたった一つある窓からさしこんでいる。

 そして・・・・・・、部屋の中央にちんまりと座るコッケー二匹。

「見つけた!ルリラ!」

 右手で合図し、二匹いるコッケーのうち、動きが遅そうな大きな方へ腕をおろした。ルリラがそちらへ向かう前に、コッケーは甲高い悲鳴をあげて逃げ回る。

「わ、あああ!?」

 あたしはコッケーとルリラにぶつからないように身をひくのが精一杯だ。

 宙に舞う白い羽。こちらも思わず悲鳴をあげたくなるほどの鳴き声。ルリラの鋭いカギ爪が容赦なく大きいコッケーを狙う。だが、前足を器用にかわし、すばしっこく逃げるコッケー。部屋の中を渦巻く黒と白の疾風。小さいコッケーは既に部屋を出て外へ行った。そいつを追いかけるように大きい方も外へ逃げ出す。「ギャー!」と鋭い悲鳴と鳴き声が何度も響きわたる・・・・・・。

 動物同士の戦いだ。とてものろいあたしがついていけるようなレベルじゃない。激しすぎるし、はやすぎるし。

 はるか前方を全力疾走する三匹が、神様に見えてきた。見失っては元も子もないのであわててあたしも三匹の背中を追って追いかける。

 すると、大きなコッケーがUターンしてこちらへ突進してきた。その後ろからルリラが。

 挟み撃ちだ!

 腰を低くしてコッケーが飛びこんでくるのを待つ。コッケーは、逃げるのに必死であたしのことが見えていないようだった。チャンスだ。

 が・・・・・・。

 彼はあたしにぶつかる寸前で方向転換をして森へ走り去っていった。一瞬遅れて手を伸ばすが、するりと避けられて空気を空しくつかむ。

 怒りがふつふつとこみあげてきて、今までにないほど超高速で手を伸ばして掴もうとするが、奴は器用に避けていく。

 凄まじい勢いで方向転換したルリラも追いつかないとわかったのか、走るのをやめトボトボとあたしの足元に来た。

「うー、挟み撃ち作戦は失敗だよ。」

 しょんぼりと肩を落として言うと、ルリラが驚いたように「ニャッ!」と鳴いた。彼女の視線の先を辿たどると、どこかへ行ったはずの小さなコッケーがせんべいのにおいに導かれるように再びあの建物へ入っていった。

 馬鹿なのか単純なのか、奴はあたし達には気づく様子もなく建物へ入っていく。再び到来する絶好のチャンス。

「行くよ。」

 静かに、落ち着いて建物へ入る。

 今度はすぐに見つかった。どうしてなのかは知らないが、奴は椅子に挟まれて動けなくなっていた。ものすごいチャンスだ。

「ごめんね~。」

 あたしが近づいたのがわかったのか、奴は思いっきり羽をバタバタさせる。無論、椅子の下敷きになっているので抜け出すことは不可能。

 弾丸のごとく飛び出したルリラが、もがく奴の首元の羽をくわえて引き抜いた。

「ギャーーーーーー!」

 響きわたる悲鳴。首の痛みに気を取られ奴の動きが停止している隙に、あたしは手をのばしてしっかり捕まえた。そのまま引っ張って椅子の下から救出する。無理矢理引っ張ったおかげで何本も羽が抜けたことは黙っておこう。

 腕の中におさまったコッケーは、降参と言わんばかりに首を垂れ、大人しくなった。

「よっしゃー!ルリラ、よくやった。ありがとう!」

 ものすごい連係プレーを発揮してくれたと思う。もし、あそこでルリラがコッケーの羽を抜いてくれなかったら、暴れまわる彼を触ることすらできなかっただろう。彼女は嬉しそうに鳴いた。

 あとは切り株まで持っていくだけだ。中の色紙の色も確認しなくては。サユリとカナエはどうなったんだろう。はやく知りたいなぁ。

 油断し、満たされた気持ちで外に出たのがいけなかったのかもしれない。

 その時は、完全にあたしもルリラでさえも油断していた。漂うキツイ飼い猫のにおいに気づくべきだった。


 外に出てさあ戻ろうと、道を踏んだ時。

 目の前を横切る黒い影。

 そいつは、飼い猫のにおいを辺りにまき散らしていた。

 再び響く悲鳴と同時に、腕に熱い痛みが走る。

「うっ!」

 急いで後ずさったが、時すでに遅し。

 腕にいたはずのコッケーは何者かによって奪われていた。

 よく見ると、コッケーを抱えていた腕には細く長いひっかき傷ができていた。傷は浅いものの、出血している。

 すると、せんべいのにおいが一層強く漂ってきた。においの発生源は、風のように現れた男性だった。あたしと同じ制服を着た人。彼の足元には、ルリラの身長の四倍はあるかというほどの巨体の猫。猫はあたしがさっきまで抱えていたコッケーをくわえていた。

 怒鳴り返そうとしてハッと口を紡ぐ。テスト中はほかの人とはしゃべっちゃいけないんだ。ただにらみつけていると、ルリラが狂ったように自分の四倍もある猫に威嚇し、ぶつかっていった。しかし、相手はびくともしない。かといって、あたしが下手に手を出したらあの鋭い爪でひっかかれるのはわかっている。

 気持ちが悪くなるほど強い彼のせんべいのにおいにビクンと体が硬直した。もしかしたら、この男はせんべいのにおいでコッケーをおびき寄せていたのかもしれない。でもなかなか上手くいかないので、誰かほかの人が捕まえるまで待っていた。で、隙をついて奪うつもりだった。

 そうだ、それに違いない。卑怯だとは思うけど、ルール違反ではないので仕方なく首を振った。

「ルリラ、もういいよ。」

 不満そうに唸る彼女にもう一度言った。

「もういいってば。下手したらあんた、その猫にズタズタにされるよ。」

 ため息をついてきびすを返そうとすると、彼は馬鹿にしたように鼻をならした。

 悔しかったので、全速力で森の方向へ走る。あの猫に触れたら絶対にあたしは大怪我を負う。悔しい。せっかく捕まえたのに。

 滲み出す涙で景色が歪む。

 あたしは大声で叫びながら森へ突っこんでいった。


 大きな石につまづいて転んだ。

 とめどなく溢れる涙を拭いていったん、地面に座る。ずっと心配そうに隣を走っていたルリラはあたしを慰めるように、膝の上に飛び乗った。

「ごめんね、あたしが馬鹿なものだから。これくらいのことで泣くなんて恥ずかしい。」

 右手で刀剣をつくって右方向に動かす。

 モニターを呼んでみる。経過時間は十五分だった。ちょうど半分過ぎてしまっている。ここから切り株に戻るのに最低でも五分は必要だから、実際には捕まえる時間はあと十分だ。

 十分で何ができるっていうの?

 情けなくてため息をつく。

 ふと、よく見慣れた黄緑色の髪が視界に入る。モニターに、サユリの顔写真が表示されていた。その隣には茶色のみつあみの髪のカナエが表示されている。

 ゆっくりと左に視線を動かした。彼女達は、赤の色紙の欄にいた。

 つまり、サユリとカナエはトップ校である赤の色紙を持ったコッケーを捕まえたというわけだ。ほかにも、赤の色紙を獲得した者は、彼女たちを含め八人いた。つまり、赤の色紙を持ったコッケーはあと二匹。チャンスはある。

 ピンク、青、ライトブルー・・・・・・と見ていくと、大体学年の四分の三は合格したという計算になった。

「あたしのやり方が悪いのかなぁ。」

 でも、まだチャンスはあるんだ!時間だってこうしているうちに一刻一刻と過ぎていく。

 もう一度気合を入れ直し、立ちあがった瞬間だった。

 ドオオオオオオオオオオン!!!

 耳が痛くなるような轟音に、尻もちをつく。何の音か理解するまで数秒を要した。

「雷だ!」

 続いて、地面が揺れる。数秒遅れて雨も降りだした。

「た、大変!」

 ここはたくさんの木が生える森の中だ。雷が周辺に落ちるのも時間の問題かもしれない。

 急いで森を出ようとするが、間抜けなことに出口がわからない。背筋にヒヤリと冷たいものが這う。つい先ほどまで走っていた道は跡形もなく消滅していた。

 最悪だ。道に迷ってしまった。

「助けて!」

 いつの間にかザーザー降りになった雨は、ルリラの毛を濡らしていく。あたしの服も体にべっとりとまとわりつくほど濡れていた。

 見渡す限り木が続く。

 なぜ道が消えてしまったのか。誰かが・・・・・・魔法を使って意図的にとしか思えない。

 とにかく真っ直ぐ歩けばいつかは外に出られるはずだった。

 ドオオオオオオオン!

 鳴り響く雷に心臓を潰されそうになる。

 音はどんどん大きくなり、こちらに近づいてきた。いつかはここに雷が直撃するであろう。寒いはずなのにダラダラと汗をかく。

 密生している木は、小さくか弱い人間と猫を逃がすまいと、固まってこちらをにらみつけているようで怖かった。

 木の間を無理矢理ぬって、雷から逃げるように走る。と、前を走っていたルリラが甲高く鳴いた。何事かと思って目を凝らすと、あたし達の数メートル先に白い物体が動いているのが見えた。それは所々汚れ、足が茶色く変色していた。

 コッケーだ!

 かなり大きいコッケー。どこかで怪我をしたのか動きが遅く、ルリラであれば追いつけそうなスピードだ。追いかけっこをしている余裕はないけど、これが最後のチャンスなのかもしれない。ルリラより遅いスピードで走るコッケーなら捕まえることはできる。

「お願いルリラ!捕まえて!」

 あたしの命令を聞いて彼女は、矢のように白いコッケーを追った。コッケーの鳴き声と迫りくる雷がデュエットとなり、森の木々を揺らす。

 もう少しだ、もう少し。もう少しで、ルリラの爪がコッケーを捕らえる・・・・・・!


 ドオオオオオオオオオオオオン!ガッシャーーーーン!


 内臓が口から飛び出てきそうな大音量とともに、大地が波のごとく揺れた。辺りが真っ白になり、何も見えなくなる。

 瞬間、あたしは宙へと放り出され、そのまま大木へ背中を思いきりぶつけた。数秒間、呼吸が止まる。背中をぶつけた反動で、今度は地面を一回バウンドしてうつ伏せになって倒れた。あまりの衝撃だったので意識が遠ざかる。

 近くに・・・・・・ううん、あたしの真横に雷が落ちたんだ。魔法界の人は自分に雷が落ちない限り死なないけど、近くに落ちればそれなりの怪我は負うことになる。

 仰向けになることもできないまま、必死に酸素を取りこもうと口をパクパクさせる。

 うっすらとかすむ視界に、二つの塊が数メートル先に落ちているのが見えた。黒と白の塊・・・・・・。


 ルリラとコッケーだ!


 二匹はお互いに取っ組み合った格好のまま、倒れた木の下敷きになっていた。薄れていく意識が急速に戻ってくる。

 何とかして二匹を助けなきゃ!

 どうやって?倒れている木はあたし一人じゃどうにもならない。最低でも三人は必要だ。

 でも、何をしてでも助けるんだ。あたし一人でも木くらいならどかせる!

 しかし、立ち上がろうと右手を動かすが、麻痺してしまったのかのようにビクともしない。

 嫌だ!このまま二匹が重い木に押しつぶされて苦しみながら息絶えていくのを見るのは嫌だ!

 何で、何で動いてくれないの!あたしの体!

 必死に葛藤していると、また雷が落ちた。あたし達を狙っているかのように落ちた雷は地面を直撃すると同時に、赤々と燃えあがる炎と化した。炎は人が操っているとしか思えない勢いで一気にあたしとルリラとコッケーを囲む。

 殺されてしまう!

 助けて、ライト!

 ライトの微笑む顔が頭に浮かんだ。

 ごめんなさい、ルリラ。あたしはあなたを救うことができなかった・・・・・・。サユリも、カナエもごめんね。

 あたし達を囲んだ炎はどんどんこちらに迫ってきた。熱く熱く燃えあがる炎は死神のように笑っていた。

 飛んだ火の粉が服を焦がす。雨が降っているのに全然衰えない火の勢いは、いっそう高く、大きくなっていく。


 死にたくない!

 ふいに巻き起こった強い想いに、ギュっと目をつぶる。

 閉じたまぶたの裏に、カッと燃えあがる炎と、それを透明で巨大な水が囲んでいる映像がうつった。なんとも言えない神秘的な感じで、フッと落ち着く。

 何となく、今なら魔法が使えそうな気がした。魔法無効地帯という見えない壁を越えられそうな気がした。

 全身の力を振り絞って立ち上がる。腕、足、腰、胸、首を鋭い痛みが襲ったのを気にせず、ルリラとコッケーの前に立ちふさがる。

 まさに、あたしに火が燃え移ろうとしたその一瞬・・・・・・!

「あああああああああああっっ!!!!!」

 あたしは闇雲に叫び、無意識のうちに両手を前に突き出した。

 魔法が使えることを祈って。


続く

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