この生活の、エピローグ
四月も半ばを過ぎた。
雨の降りしきる中、ビニール傘を手に歩く。
町ではやけに学生服が目立ち、時々目に留まるのは「新生活応援」の文字列。
そういうのを見ると妙に胸がざわざわする。
自分でもよく分からない不定形な感情が心で蠢く。
そうか……もう春なのか……。
今更ながら気が付いた。
そう言えば桜を見ていない……。
それは別に、今日みたいな大雨が続いて桜を見る機会が無かった、という訳ではない。
見る機会なら幾らでも有った。
去年に比べ、今年の桜は開花時期がいささか早かったと聞く。
たぶん、多くの人が花見を満喫した事だろう。
ただ……俺が見ようとしなかっただけだ。
今年に入ってからこっち、俺が家を出た回数は両手で足りてしまう程に少ない。
そして俺のニート生活年数は、片手では足りない程に多かった。
家に帰っても、何もする事が無い。
そんな生活にももう慣れた。
好きだったゲームは好きでなくなり、好きだった漫画も好きでなくなった。
コントローラーを持つ事さえ怠いと感じ、冊子を開く事さえ億劫に感じた。
やる気が湧かない。
何もかもが面倒だった。
面倒臭い。
そんな俺が家に帰ってからする事。
一つしかない。
自室に戻って寝るだけだ。
寝れば総てが良くなる気がした。
そこが自室でないと分かったのは、俺が起き上がってから測って、丁度一分が経過した時だった。
寝惚けたような頭を必死で立ち上げて、まだ開き切らない両眼をガシガシ擦って周囲を確認する。
俺が居たのは見知らぬ場所だった。
インターネットを通じてでも見た事の無い景色が、俺の周りには広がっていた。
何……だ……?
当然だが意味が分からなかった。
混乱に次ぐ混乱で俺の脳味噌は沸騰直前だ。
寝る前は家に居たはずなのだが……。
あの世にでも来てしまったのだろうか。
……だとしたら、ここは間違いなく天国だろう。
大地は青い草原で覆われ、突き抜けるような空には真っ白な雲が穏やかに流れている。
遠くには、テーマパークなんて比べるまでもない程の立派な城が窺えた。
こんなの、見た事が無い。
圧倒的な美しさを持つ景色に、俺の目は釘付けになる。
一体……ここは何処なのだろう……。
ふと、誰かに肩を叩かれた。
風が吹いているせいか、俺はそれまで全く気付けなかった。
バッと振り返る。
……女性が居た。
俺と同い年くらいの、そして俺と同じくらいの身長を持つ人だ……。
否、人ではなかった。
よく見ればその女性は、背中に白い翼、頭上に金の輪っか、という出で立ちだった。
そう……。
それは……まるで――